第24話 作戦

 カリオスがまず初めに行なったのは、いくつかの確認だった。


 一つは、籠手こての性能確認。


 そこらに落ちていた枝を籠手にセットし、飛距離や勢いを確認する。


 サーナの話だと、籠手をスライドさせる回数で威力が変わると言っていたため、適切な回数の確認も同時に行った。


 あまり回数を増やしすぎると、次弾発射までのタイムロスが大きくなる。


 そのうえ、腕への反動が大きいため、ダメージが蓄積されるのだ。


 かといって、少なすぎると飛距離が足りなくなってしまう。試し打ちは何度かしておいた方が良いだろう。


 もう一つは、クラミウム鉱石による応用だ。


 樹木の光を十分に蓄積したクラミウム鉱石を、籠手にセットする。


 その瞬間、銃口から一筋のまばゆい光が放たれた。


 この結果は彼にとって予想通りであったため、籠手の大まかな構造は理解できたと言っても過言ではないだろう。


 光を蓄積したクラミウム鉱石にエネルギーを蓄積していないクラミウム鉱石を接触させると、発光する。


 これは以前、影の精を撃退した時と同じ原理だ。


 あの時は両手に持ったクラミウム鉱石をただぶつけただけなので、全方向へと光が放出された。


 しかし、籠手から放出された光はそれとは異なり、指向性しこうせいを持っていた。


 単純に銃口が筒状になっていることも大きな原因ではあると思うが、どことなくサーナの思惑が働いている気がする。


 技鉱士であるカリオスにこの籠手を渡したのも、事前に大量のクラミウム鉱石を渡されたのも。


 こういった使い道を前提とした装備だったのではないだろうか。


『まぁ、考えても仕方ないな。今はとにかく、準備を進めることに専念するか。ダンガン、そろそろ準備は良いか?』


「あぁ、兄ちゃんが言ってた道は、今作り終えたところだぜ? ったく、たいそうなこと考えつくもんだ。上手く行くもんかね?」


『そうだな、上手く行くかどうかはバートンの野郎にかかってるな』


 カリオスはそう呟くと、聖樹の上部へと延びるスロープへと目を向ける。


 作戦を思いついた彼は、バートンとダンガンに詳細を伝えた。その内容をコロニーにいるメンツに伝えるため、バートンは走っているのだ。


『……あいつをこき使えるのは、いい気分だな』


 だが、なにもこき使うためだけにバートンが走っているわけでは無い。適材適所と言うものだ。


 ダンガンにはここで道を作ってもらう必要があったし、カリオスはこの後するべきことがたくさんある。


 必然的にバートンが走るしかなかったのだ。


『そろそろ仕事に取り掛かるとしますかねぇ。悠長ゆうちょうにはしてられないしな』


 そういうと、カリオスは新しく作られた枝の道へと向かう。


 その道は聖樹の上部へと続いている道かられて、聖樹の外へと出れるように伸びていた。


 勿論、彼がいるこの場所は、コロニーほどではないがかなりの高度がある。


 つまり、このまま聖樹の外に飛び出してしまうと、幹の中腹から飛び降りることになる。


 だからこそ、ダンガンには幹に沿った道を作ってもらったのだ。


 不親切なことに、手すりなどは無いので、非常に危険ではあるが……。


「なんだ? 文句でもあるってぇのか? 落ちても、俺が何とか助けてやるからよぉ、安心しろ」


『まぁ、泥船では無さそうだな。木製だろうし、何とかなるか』


 そうぼやきながらも、彼は細いつたをくくり付けた矢を籠手にセットし、スライドを開始する。


『なぁ、何度も聞くが、本当にここから蔦を伸ばすことはできないのか?』


「わりぃな、ここから単純に蔦を伸ばしてもなぁ、兄ちゃんの言ってるほど遠くまでは伸ばせねぇ。だからこその、ガイドを飛ばすんじゃねぇか。それがありゃあガイドに沿って蔦を伸ばすことぐらいお茶の子さいさいだぜ? よぉし、開けるぞ? 準備は良いか?」


『頼む。開けてくれ』


 聖樹の幹の手前で足を止めたカリオスが号令を出す。


 その号令を合図に、ダンガンが幹へと潜り込んでいった。


 待つこと数秒。


 ミシミシと音を立てながら、幹を構成する木々が変形を始める。


 カリオスの顔辺りに空いた小さな穴。それが少しずつ広がり、横長の窓へと変化していく。


 その窓から外の様子が伺える。やはりかなりの高度があるらしく、冷えた空気が聖樹の中へと吹き込んでくる。


 ヒヤリとした空気を肺と背筋で感じた彼は、頭を振って紛らわす。


 改めて周囲を見ると、同様の窓がいくつも現れ始めている。


 その変化が終わる前に、カリオスは窓の外へと向けて照準を合わせた。


『さて、ちゃんと飛んでくれればいいんだが』


 そう呟いた彼は、こぶしを握り締める。


 途端、籠手の銃口から放たれた矢が幹に空いた窓から外へと飛び出してゆく。


 当然、矢に結ばれた蔦もまた、窓の外へと引っ張られていた。


 しかし、カリオスがその様子を確認することはできなかった。


 なぜなら、発射した反動で腕どころか全身が後方へとのけぞり、背中から倒れ、悶絶もんぜつしていたのだ。


 危うく枝の道から落ちかけた恐怖と、右腕と背中に走る鈍痛を感じながら、彼はぼやく。


『くっ……走った方がマシだったか……』

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