第13話 焚火
カリオスの攻撃で
その様子を見てチャンスと思ったのだろう、ミノーラが
その姿を視界の端で
『やばいやばい! こいつ状況を理解してないやつじゃん! くそっ! もう大丈夫か!?』
倒れた兵士の奥に
彼はその存在について、一応の知識を持っている。確かに、狼であるミノーラが知らないのも無理はない。
『なんだってこんなとこに精霊がいるんだ? 誰かが召喚でもしたのか? って、そんなこと考えてる場合じゃないか! たしか、こいつは光に弱い
彼は
次いで左手に腰のポーチから取り出したクラミウム鉱石を握り締める。
念のためとサーナから鉱石を返してもらっておいてよかった。
そんな
案の定、ミノーラの全身に黒い
もしかしたら、サーナが渡していた首輪の影響なのかもしれない。
首から上だけ紐の
だが、いつまでも無事でいられるわけがない。
目の前にいる精霊は精神攻撃を得意とする“
『間に合え間に合え間に合え!!!』
焚火からミノーラのもとまで10メートル無いほどだろうか。地面の
そうして、彼女の横を抜けたかと思うと、両手をたたき合わせた。
当然、両手に持っていたクラミウム鉱石が衝突し、焚火から取り出した鉱石が強い光を放ち始める。
鉱石から手を離した彼は、とっさに両手を目の前にかざす。
「何が!?」
ミノーラの叫びが聞こえるが、取り敢えずは無視する。そうして待つこと数秒。
光も影も
「……カリオスさん?」
『まいったなぁ、なんて説明すればいいかね。めんどくせぇな』
そんなことを思いながら、彼女の頭を
初めこそ少し心地よさそうにしていたが、ミノーラはすぐに顔をしかめた。
「ちょっと、話を
『な、気持ちよさそうに頭を押し付けてきたくせして……俺の手に毛が付いたらどうしてくれるんだ? なんて言ったら怒られるんだろうなぁ。敢えて言えば話を逸らすことはできるか……会話できないのが、もどかしいな』
目を閉じ、
「さっきのは、例の石の力ですか? いまいち意味が分かってないんですが……」
『そうそう、クラミウム鉱石はエネルギーを
うん。とうなずいた彼は、その場にしゃがみ込むと、地面に一言書いた。
「魔法の石?」
『そうそう、それで納得してくれ。正直理屈とか聞かれても俺も知らねぇしな。
大きく何度も
「この人間は、さっきの黒いやつに操られていたんでしょうか? あの黒い紐みたいなものが足にまとわりついて来た時、体の自由が奪われる感覚がありました」
カリオスはその言葉を聞き、地面に単語を書き加える。
「影の精? それがあの黒いやつの正体ですか? 覚えておきます。もう会いたくないですね」
そう
「もう休みましょう。
その提案には賛成だ。とばかりに彼も焚火の方へと小走りで移動する。
先程まで眠っていた簡易ベッドへと向かった彼は、足元に座り込んでいるミノーラと目が合う。
「あの……」
『なんだよ……?』
「隣で寝ても良いでしょうか?」
よほど怖かったのか、彼女はすこし小さめの声で言った。彼としても、彼女が居なければ影の精に気づくことなく、今頃命を落としていてもおかしくはない。
だから、恩を返す義理がある。
『理由付けしなきゃ何もできないな、俺は』
そう心の中で独白した彼は、大きく頷きながらベッドに腰を下ろす。そして、ベッドに乗るように促した。
「ありがとうございます」
そこらの森からかき集めた草などで作った簡易ベッドなので
既に小さな
そんな彼女を撫でながら、彼は焚火を眺める。
『あーあ、毛が付いちまったよ』
今更ながら、彼は思う。影の精が出た時、彼女を置いて逃げてもよかったのだ。
何しろ、勝てる見込みなど全くなかったのだから。正直、
名前の通り影の精なのだから、夜の時間は最も力が強い筈だ。それが、こんな下火になった焚火の光で消えるのだろうか。
事実消えたのだから考えても仕方がない。
彼はそれ以上考えることをやめた。何しろ
『まぁ、傷付くよりは
ゆらゆらと揺れる焚火の暖かな光に包まれながら、彼は思った。
この焚火が下火のまま永遠に燃え続けてくれたら良いなと。
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