第14話
…去年の夏為すを成さずに悔ひ拾ひ悔ひもつき得て為すことを成し…
以前私が山口をレンタカーで旅した時、角島(つのしま)で知り合った学生を山陰本線の特牛(こっとい)駅に送った時の事だった。
彼が横浜から普通電車を乗り継いで一人旅をしている事を聞かされ、暫く電車の待ち時間を二人で談笑し親しく父親のような気分でいながら、選別を渡さなかったことを私は後悔していた。
だからこの子には絶対に心付けを渡すと、二人で歩く途中から決めていたのだ。
「あぁ、もう駄目。涙が出ちゃいそう。有難う。……、あ○し、ま○○きな○居な○よ」
響子の最後の部分の気になる言葉が細く聞き取れないまま、私の突然急き立てる動悸よそに、彼女は何度か手を小さく振ってバスの中の人となってしまった。
混雑しているバスの中に彼女の姿はもう見えないが、まだこちらを見て手を振ってくれているような気がしたから、私はバスが視界から消えるまで響子にエールを送り続けた。遥か昔の恋人の旅たちを見送る強がりを振り返るかのように……。
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