第13話

 …浮かぶ瀬もありと今宵の月見草あなた次第の月も出づれば…


「響子ちゃん、甘える事は悪い事ではないよ。意地を張り過ぎると良い事も遠ざけてしまうから。強く生きつつ適度に甘える。それでいいんじゃないのかな」

 結局私は心配を口にしていた。

「もうやだー。まるでお父さんみたいな言い方ね。でも私の事心配してくれてありがとう。嬉しいわ」

 響子の目が潤んだのを知ると、私も急に目頭が熱くなった。心配しておいて何だが、この娘は素直だ。きっといい人に巡り合い幸せを掴む確信の様なものが見えた。

 二人が堀川通に出て七条通にあるバス停まで僅かな距離だったが、私にとっては十分すぎる時間の経過だった。折よくと言うべきか気が利かないと言うべきか、響子の乗るバスが手前の信号で止まっている。

 響子は何を思うのかいきなり私の袖口を摘み、

「津山さんと話が出来てとても楽しかった。ありがとう」

 彼女は急に大人びた微笑みを湛えている。

「響子ちゃん。僕の方こそありがとうだ。これ就職祝い。遠慮するほどの額じゃないから受け取って」

 私は有無も言わさず響子の掌にお札を押し込み、次に彼女の掌を固く閉じさせた。そして「ほら早く、バスに乗り遅れるよ」と、彼女の遠慮を受け付けない態度に出た。

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