第12話
…途の風に清し危なし冬椿…
私はこの娘の事をもっと知りたいと思って「響子ちゃんは大学生?」と聞いてみた。
「うん、これから奨学金を返すとなると大変だけど。家は貧乏だし、母にこれ以上負担を掛けられないから。就職は決まったけどご時世で仮契約からだから不安だわ。でもね、私、甘えずに生きると決めているの。そうでなきゃ苦労している母の助けになれないもん」
そう言い終わった響子の顔に意地を張った様子は無く私には眩しかったが、その強さが少し気になった。
私は色々な事を経験してきたし、社会の裏側も多少は知っている。大学生の凡そ半数が借りる奨学金は三百万円以上とも言われている。彼女がもし……、いやこの先のもしもは言葉にしたくない。
組織は学業とは違い村社会だ。白が白と通るとは限らない。意地など張れば損をするに決まっている。だから転ばぬ先の杖と言うか、甘え上手が身を助ける事もあると言いたいのだが……。
いやいやしかし、それはいつの間にか意気地を無くした私の弱音で、彼女の社会への第一歩を祝福するものではないような気がする。
なら若者よ。失敗を重ねて強く大きくなれと言うべきか。果たしてこれも正解とは言えない。えーい、何か気の利いた言葉はないものだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます