第10話

 …六道に人間らしきを本願とおきてもとより矜持と致し…


 六道の辻は冥土六界の分かれ道であり、六道珍皇寺は小野篁(おののたかむら)が昼の宮中官吏の傍ら、夜は閻魔大王に仕えたと言う伝説の有るあの世とこの世の境の井戸がある所だ。

 彼岸に対して此岸とは平たく言えば娑婆であり、四苦八苦に苦しみ悩まされる因果世界である。信じる者は救われると言うが、仇と出ればつい恨みたくなる。無償の愛と言うのではなく互いに不完全なるもの同士。付かず離れず出来れば許し合う事を私は経験から選んだようだ。

 娑婆は六道そのものと言われることもある。地獄、餓鬼、畜生や、修羅など真っ平ご免だ。かといって天道などは望めやしない。

 辛うじて転ばずに人間道を生きる私は、六界全てを抱えつつも、人間らしさを矜持とすることを本懐にしようと言うのだ。となれば結果お一人様も、先に孤独死が有ろうともう怖くは無い。逝く間際まで歩けてコロリなら尚よいし、今宵の響子との出会いはその覚悟の餞なのかも知れない。

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