第9話

 …抓まれたにほひすれども匂ひ無き椿の花を見るが如きに…


「僕は京都から電車で石山です。京都に泊まるより近い所から通いたいんです。最近この時期に大津や大阪に宿を取って、京都の町を歩くんです。あぁそうだ。四、五年前になるけど、東山は霊山本廟近くの宿から、三年坂を通って清水寺に行ったことがあります。早朝の散歩がてらだったけど、何より清々しく空いていてよかった」

「私は二年坂。そうね、六道珍皇寺が近いかな」

 響子はそう言うと笑って見せた。

 細身で身長の有る娘だが、心なしか体の線も一層細く見えるし、整った顔立ちも幾分狐顔に見えてきた。

「何だ、ドキッとするな。珍皇寺って六道の辻のでしょ…。響子さんも中々だね。それ本当なの…笑」

 私は目の前に降って湧いたような響子の印象を思い出していた。


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