第8話

 …一会の謎の無くもがな冬椿…


 すると響子は「唐門が美しすぎて、つい見惚れてしまいこんな時間に」と続けて言った。

 それは日暮らし門の別名を準えていて彼女の怪なる印象にも響くものだが、響子の機転の利いたこの言葉に私はすっかり虜にされてしまったようだ。

「響子さん、うまい事を言いますね」。大禍時の潜在性の恐れもあるのだろう。しかしうつつまぼろしの奇妙な心持も、言葉の魔力に惹かれてしまえば世迷言と押し切られて当然だった。

「津山さんは、これからどちらへ」

 響子のこの言葉を潮に、西本願寺の土塀を左右にして、細くなる北小路通を二人で歩き出した。

「私はこれから宿泊先に戻りますが。そう言えば、響子さんの行く先も聞かないままで……。こちらで良いのですか」

 もう歩き出していると言うのに一応聞いてみた。

「ええ、私はバスで五条坂まで行きます。津山さんは」

 会話を交わすほど互いに以前から知り合いの様な、会社の年の離れた同僚かそれとも親戚のおじさんと娘なのか、そんな雰囲気を感じてしまう私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る