第5話こんなスキル知らない

聖水で満たされたきらびやかな湖は神殿の中心に位置される。

実際に見たことなどは無いのだが····うん。

風光明媚という言葉がそのまま当てはまるような大変美しい場所だというのは目に浮かぶ。

そして、何より重要なのはその場は自分のスキルを事細かに知ることができるということだ。

方法は簡単。

湖の中に顔を突っ込むだけ。

その途端、頭にスキルの情報が埋め込まれるのだそうだ。

このような場所は数少なく、そのなかでもこの国のように湖を自由に解放している所はさらに少なくなってくる。


その理由は後のことがあるだろう。


スキル保有者にとって自分のスキルが何なのかはかなり重要になってくる。

スキルの発生は1000年以上も前であり、そのスキルは魔法とともに常に研究されてきた。

そして今ではほとんどのスキルを分類、ランク付けされたモノが辞典になっている。

この辞典には、スキルの基本情報、欠点、名称などが記されており、スキルを持つ者、主に戦うことを職業にした者達は完璧に辞典の内容を頭に入れている。

つまり、自分が絶対に信用していると豪語できる者以外に自分のスキルを漏らせば、それは自分の弱点を敵にさらすことと同義になる。

そんな大事なスキルを知ることができる湖。

これは金に変わるであろう?

こんな腐った考えを持ってしまった国々は、顔を浸けるために大金を払わせたり、庶民風情はそもそも侵入禁止にしたりと、なかなかに鬼畜なハードルを設けている。

だが、我が国では初代国王が

「何ケチくせぇこと言ってんだよ、金を儲ける方法ぐらい他にもあんだろ」

と言ってから、この場は完全な自由地帯となった。

そして結果、他の国の国民がこんなに良い場所はねぇぜとか言って沢山流れ込み、経済は活性化し、新しい文化や技術が生まれ、現在この国はかなり盛んになっている。


ここまでをフードの男と喋り終えたところで俺達は神殿にたどり着いた。


傷一つ無く歴史を感じさせない石畳をあまりにも強い日差しが照りつけ、その上にはもやもやとした陽炎が見られる。そして中央に見えるのは限りなく神秘的な湖。

一切の淀みも許さないその水が聖水と呼ばれるのにも頷ける。

それを大理石で作られたであろう白い柱が規則正しく囲っている姿は、自分の想像していた神殿に限りなく近かった。


だが、そんなことを考えられるにも関わらず、口が出るのは

「綺麗だ」

のただ一言である。

今、語彙力の低さを身をもって感じた。


身勝手にも美しい物の前で落ち込んでいる俺を、フードの男は早く湖に顔を浸けなよと促してくる。

まるで自分のことかのように待ちきれない雰囲気を醸し出して。

自分もスキルの事を考えると、落ち込んだ気持ちが見せる暗闇が一気に明るくなり、今では明るいを通り越してお花畑に変わってる。

ついに分かる。

自分の人生を大きく左右する、云わば生きる為の切り札。

それが·····ついに····。

湖の前に屈み、自分の顔を浸けた。

鋭い電撃が俺の頭を走る。

俺のスキルが頭の中に浮かんでくる。

そして今、理解した。


俺のスキルを知っての記念すべき第一声は、喜びの叫びでも、悲しみの叫びでもなく、全くもって知らないの意を表す、

「何、これ」

「こんなスキル、知らない」

の疑問の言葉だった。


辞典を丸暗記した俺は知らないスキルなど無いと豪語できるだろう。

でも、俺は·······<絶対関係>なんてスキル、微塵も知らないのである。










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