雨降り長屋
きょうも雨が降っている。きのうも一昨日も雨だった。
もう何ヶ月も何年も前からずっと雨が降り続いているような気がする。もちろんそれは気の迷いに過ぎない。そんなこと、あるわけがないのだ。
縦格子が嵌った窓の外は、小雨で白く煙っている。
細かい砂利を敷き詰めた街道に行きかう人の姿はない。
街道を挟んで向かい側に、こちら側と同じ造りの、平屋建ての古い長屋が左右に長く延びている。その並んだ窓のどれにも人影は見えない。誰もいないのか、じっと息を潜めて気配を殺しているのか、それはわからない。
静かだ。雨音すら聞こえない。
ちいさな雨粒は灰色の空から真直ぐに落ちてきて、掻き消すように地面に吸い込まれていく。
こうして畳の上にじっと座っていると、時間が止まってしまったかのように感じられる。いままで何をしていたのか、これから何をすることになるのか、何ひとつわからないし、わからなくてもいいのだという気がする。
ここにいる限り、ひとはどこから来てどこへいくのか、そのような問いは端的に無意味でしかない。
ひとは、ただ在るのだ。
始まりも終わりもなく、ただ日々が繰り返される。
雨はいつまでも止まない。
でも、もし雨が止んだら、そのときは。
そのときは、どうすればいいのだろう。
古い長屋の窓の外で、雨は静かに降り続いている。
掌編集 ミラ @miraxxsf
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