ファーストステップ

スタジオへ入る時はいつもワクワクする。

子供の頃から夢見たあの世界への扉が開くような気持ちになるからだ。

ダンスの世界…

サリエルパンツに包まれた脚を入念にストレッチして柔らかくウエーブさせた髪を無造作にまとめた。


今日は修一が来る。

仕事の一環で私がサブアシストを務めるこのダンススタジオに彼が来る。

大切なクライアントを連れて…


修一のことは名前以外よく知らない。

スーツが似合うサラリーマンであること

優しくて、笑顔が素敵で、多分、そこそこの地位と収入もある感じだ。

モテないタイプではない、世間のOLや受付嬢は放って置かないだろうと思う。仕事も出来る雰囲気で女性受けする容姿に、大人の優しさを持ち合わせた品のいい男性…私の抱く修一のイメージだ。

そんな彼がなぜか自分に好意を寄せている…


修一のことは好きだ。いわゆるLikeの延長線上にあるふつうの好きだ。爽やかで清潔で、大人の男性が眩しいモノを見るような視線をすることが新鮮だった。

でも、だからといって全てを懸けての好きとか、生き様を一変させる好きとは類いが違っていた。


それは自分に好意を寄せてくれる大人に

少し寄りかかる、フカフカのクッションに腰掛け寄りかかる、そんな心地だった。


彼もダンスを始めた。

私の勧めるままに…それは嬉しかった。

ダンスを知った彼はキラキラしている。

ダンスは魔法だ。踊る喜びを知った人間は

息吹が違う。

彼が私の言うことにキョトンとすることは

今ではもうほとんどなかった。


修一

ダンスの初回は筋肉痛で終わった。

楽しい…なんて思うのは束の間だ。

音を表現するために筋肉を鍛え、基礎を積み

体を駆使するためにひたすら習うだけた。

まるで『花火』になった気分だ。

僅か一瞬の感嘆のために職人達が駆使する

技それが花火なら、ダンスは同属だ。


そして知れば知るほど奥が深いのもまた

ダンスだ。

ダンスを始めて知ったこと、ダンスを習う

女性は実年齢より遥かに若く綺麗に見えて『自分磨き』に余念がない。

この場所でも数少ない男性の僕は、なにやら

歓迎モードでもてはやされる。

今の僕は、美蘭以外は目に入らない。


彼女の言うように、音には表と裏があること

8-16のビートがあること、ダンスの基礎はバレエに基づくこと、音を表現することがダンスであることを、その一瞬のために日々汗を流し、全身の筋肉をしなやかに鍛え上げていることを僕は実体験で学んだ。


僕の報告を美蘭は子供の報告を聞く母親の

ように僕の髪を撫でながら聞く。断じてぼくはマザコンではないが、幼い頃に感じたあの褒めてもらったような複雑な気持ちになる。

そうして欲しくて続けている。


だがしかし、ただそれだけのために僕は

ダンスレッスンをしてきた訳ではない。

僕自身が納得したかったのだ。

そして僕が描く夢のストーリーを展開させたかったからだ…2人で奏でるこその夢。


この夢の続きはまた今度!

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