第八話 近い空は

 アッシュフィールドのシェアハウスへと帰る途中、なんとなく日本のことを考えていた。


 日本を離れてから二ヶ月余りしか経っていないのに、すでに多くの忘れがたい思い出を作れたことに、信じられないような気持ちが湧いていた。


 出会いに恵まれていることは分かっている。

 それがもたらす景色が美しいことも。


 帰り道の途中にある大きな公園では、少年たちがボールを追っていた。地元の少年サッカーチームなのだろう。


 青空にはさまざまな形の雲が浮かんでいて、それらが自然と僕の目に入ってくる。


 ――ここは空が近い。


 鋭い陽射しを受けて汗ばんでいるTシャツをパタパタとさせながら家に入ると、「君もスミにおけないな。ほら」と言って、利夫さんが一通の手紙を渡してきた。いたずらっぽく微笑み、彼は部屋へと戻っていく。相変わらずいい男だ。そのDNAを分けてくれないだろうか。


 部屋に戻り、手紙の差出人を見ると、目を疑った。差出人はミナだった。



 護助君へ


 護助君、お元気ですか?

 私は相変わらず元気です。今は一生懸命働いています。少しはお化粧もうまくなりました(笑)。

 そうそう、お手紙ありがとう。

 護助君、オーストラリアで頑張ってるんだね。同封してもらった写真を見て、その景色に惹かれました。きっと今の環境は、護助君に合ってるんじゃないかな。護助君、いつも空を見上げてたもんね。だから、青い青い空の下ではもっと護助君らしくなれるはず!

 仕事はね、上司に叱られてばかりだけど、めげずに頑張ってます。

 最近、学生時代のことを思い出します。護助君は、よく私を笑わせてくれたね。皆、元気なのかな。また護助君に会いたいです。会って、色々話をしたい。

 でも、今はお互いの生活を尊重しなきゃだもんね。

 じゃあ、またね! 

                                 ミナより



 ――夢じゃない!


 気がつけば、ベッドの上でボンボンと跳ね上がっている自分がいた。


 すぐに返事の手紙を書くことにした。結びの文だけは、すぐに思い浮かんだ。



 この景色をミナに見せたいです。

 また会えるのを楽しみにしています。

                                 護助より


          

 ちょっとおおげさかなと思いつつも、一時間後、僕は郵便局へと急いでいた。

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