第三話 仲間
迷い込んだり落ちこんだり
そんな時おまえがいた
おかしくて笑いこけて
そんな時おまえが友達だった
いつだってどこにいたって
おまえは友達だった
翌日、僕はガイドブックに載ってあった〈レッド〉という、日本人スタッフが経営している旅行代理店へと向かった。
語学学校を探すためだ。
レッドの中に入ると、衝立に日本の記事の切り抜きが項目別に貼ってあり、最新のニュースが読めるようになっていた。カウンターには日本人スタッフが五人いて、フロアには銀行のようなソファーが用意されている。
来客者は男女合わせて四人しかいなかった。その四人がかたまって、男性スタッフと話し合っていた。その内の一人の女性が僕を見た。
お互いにハッとした。パース行きの飛行機で相席だった、あの娘だった。
「あっ、飛行機で一緒だった……あの時はどうも」
「どうも、また会いましたね」
彼女は大きな目を輝かせ、色白い肌にえくぼをみせて笑った。飛行機の中では気づかなかったが、体型は少しぽっちゃりしていて、明るい雰囲気のある生き生きとした娘だ。
「カンナさんの知り合いですか? どうぞどうぞこちらにお座り下さい」
カウンターの向こうで目の細いがっちりとしたスタッフの男が僕を手招きした。 大阪弁のイントネーションだ。
僕はとまどいながらも彼らに近づいていった。屈託のない笑顔を浮かべ、スタッフの男が言った。
「いつパースに着いたんです?」
「えっと、一昨日です」
僕がそう答えると、カンナが合わせるように横から言った。
「私と一緒の席だったんですよ」
「おー! それはすごい。運命ですね。今ここにいる人たち、みんな一昨日の到着なんですよ」
へえ……とうなずいてから、僕は自己紹介をした。
「ああ、中山護助です。よろしくお願いします」
「あたしは松田カンナ。改めてよろしくね」
「ほら、せっかくの同期なんだから、みんなもどうぞ自己紹介を」
スタッフの男は残りの三人に、挨拶をうながした。
まずは、目の細いジャガイモ型の頭をした小柄な男が握手をしてきた。
「大阪出身の竹田亮いいます。二十九になりますけど、まあぎりぎり若いんでよろしく」
今度は、肌が黒く目つきが鋭くて、全身からエネルギーがでているような精悍な男が口を開いた。
「自分は吉田剛す。よろしく」
そう言って、吉田剛は照れくさそうに笑った。
「東谷由美です。よろしく」
由美は目鼻立ちが整っていてまつげが長く、ショートカットの髪型がよく似合っている。どこかの広告に載っていてもおかしくないくらいの美貌だ。
紹介が終わると、スタッフの男がパース近郊にある学校が載ったマップをみんなに配り、一つ一つの学校の特徴を丁寧に説明しだした。
吉田剛は大工の仕事を三週間休む予定で来ているので、語学学校には通わずホームステイだけのプランらしい。残りのメンバーは明日、それぞれが目星をつけた学校に見学に行くことにして、今日はせっかくの出会いを祝うため、みんなで食事をすることにした。
あまり日本人と仲良くするつもりのない僕は乗り気じゃなかったけれど、断るわけにもいかなかった。
「どうしてパースに?」
地元じゃ有名らしいレストランで、オージーステーキを囲みながら、みんなで、この地に来たきっかけなんかを話すことになった。
カンナは僕より一歳年上で二十五歳。地元の千葉で眼科の助手をしていたのだが、海外で生活することへの想いが強くなり、おもいきって渡航を決意したのだった。
由美は東京のアパレルショップで働いていて、仕事は順調だったのだが、恋人に二股をかけられていたことを知り自暴自棄になり、全ての貯金を海外で使ってやろうと力んだ結果、オーストラリアまで来たのだという。可愛らしい外見とは裏腹におもいきった行動力の持ち主だ。
亮さんは会社勤めをしていたのだが、次第に日本での生活に疲れ、ワーキングホリデービザを取ることに決めたのだという。結婚しようと思っていた彼女とも別れてしまったので、海外にでるチャンスは今しかないと思ったらしい。
剛は、大工として腕を磨いていく日々に充実してはいたが、元々好奇心旺盛な彼は、日本では味わえないスケールのでかい何かに触れてみたいと常々思っていたらしい。
僕はといえば、「海外で暮らしてみたかったからです」とだけ言った。
結局、ここに来た理由なんて、直観的なものでしかない。それに色をつけていくのは、きっと、これからの行動で決まるのだ。
でも……未だにいくつかの影が、僕の心の中をさまよっていた。
店を出ると、僕たちは〈キングスパーク〉へ向かった。キングスパークはパースのシンボルだ。丘の上にあるその公園は四百四ヘクタールもの広大な面積を誇り、丘からはパース市街、スワン川、サウスパースが一望できる。
この公園の上から見た光景に、一同は思わず歓声をあげていた。
ここまで自然と都市の調和がとれた場所が、他にあるだろうか。
湖かと思うほど大きいスワン川を挟んで、左側には近代的なビルが仲良く並んでおり、右側には穏やかな町並みが奥深くまで続くサウスパークが位置し、視界の下側には、緑の敷地を横切る道路幅の広い高速道路が見える。その全てがスワン川を中心にほどよくまとまっていて、不思議と、都市の無機質さを感じなかった。
キングスパークの丘の上からその景色を眺めていると、時間がゆっくり流れていくようだった。
「パース来てよかったなあ。大阪じゃこんなん、味わえへん」
「東京だってそうだよ」
と、亮さんと由美がそう言った。
いつ持ってきたのか、剛はバッグからフリスビーを取り出すと、「やろうぜ!」と息巻いた。
青い青い空の下、こんもり盛り上がった緑の丘の上で、僕たちは即興のブーメラン技を披露しあった。
外国で日本人とばかりつるんでいると、そこの言語を覚えるのが難しくなるらしい。だから、僕はあまり日本人と仲良くするつもりはないのだけれど、いつの間にか彼らとともに笑顔になって、フリスビーを追っては、丘の上を走りまわっていた。
翌日、剛以外の四人で、レッドの女性スタッフに率いられて学校見学へおもむいた。
プールと体育館つきの学校から、こぢんまりとした学校までさまざまな所をまわった。その間、僕は一同のかたまりから少し距離を置き、時にタバコを吸いながら、みんなの背中を見て歩いていた。成り行きでカンナ達と行動を共にしているけれど、彼女達と仲良くしようとは、生意気にもあまり思っていなかった。
「ねえ、護助君」
四校目へと見学に行く途中、カンナが隣までやってきた。
「なんか護助君っておとなしいよね。もっとみんなと話せばいいのに」
「いや、まあ、俺は少し人見知りするタイプでさ」
やっかいな会話だな、と思った。
カンナはあけっぴろげで誰とでも気軽に話してしまうし、おせっかいな性格らしい。
レッドに戻ると、みんな、携帯電話を購入することにした。
オーストラリアで使われる携帯電話の主流〈オプタス〉は、同じメーカー同士での会話は通話料無料で、それでなくても日本のものと比べると通話料が安い。一年もの間この地に住む以上、自分の電話を持っておくにこしたことはない。
みんなで電話番号の交換を済ませた後、僕はすぐに家へと帰っていった。少し疲れていた。
「ゴスケ、学校は決まったか?」
「いや、まだですよ。まあ、金がないから一ヵ月半くらいしか通えないんですけどね」
リビングでくつろぎながら、僕はカリステアスさんと話していた。突然、僕は「あっ!」と声をだした。
日本からプレゼントを持ってきているのを思い出したのだ。
「これ、プレゼントです。日本から持ってきました」
侍の人形だ。刀を天にかざした総髪の男がまっすぐ前を見ている。人形のモデルは新撰組の副長、土方歳三である。
「オオ、サムライ! 知ってるよ。日本の戦士だろ?」
「ええ、彼はとても強いんですよ。日本のラストサムライです」
エヴァさんとイリニーも寄ってきてこの日本の人形に興味を示してきた。とりわけ小さい男の子の方は刀をもった黒髪のこの戦士に大きく好奇心を持ったみたいだ。
スパイダーマンやスーパーマンとは全く容姿が異なるけども、ゴスケの国のヒーローなのだ、ということを想像しているのかもしれない。
「これはカタナ?」
「そうだよ。それで敵を倒すんだ。侍ってのは日本の昔の戦士でね。刀は侍の誇りなんだ。壁に這って登ることはできないけどね」
こう言いながらも、あまり深く質問されることを僕は恐れていた。英語で詳しく説明することは自分には不可能だし、かといって適当なことを言ったのでは日本文化を勘違いされてしまう。
しかし、「ハラキリ」や「ニンジャ」について、カリステアスさんとイリニーは興味深そうに容赦なく聞いてきた。
あちゃあ、と思いつつ、身振り手振りと辞書を駆使しながらも、僕は必死で即興の講義をしだした。こうなったら、腹をくくるしかない。それに、自分の国の文化を知ってもらうのは、大事なことだ。
イリニーはといえば、もうそんな説明はどうでもいいらしく、途中でスパイダーマンになって、「くらえサムライ!」と叫び、小さな手で僕に攻撃してきた。
なので、「おのれ、スパイダーマン!」と、僕は日本語でそれに応えてあげた。
サムライがスパイダーマンにとどめをさされた頃、部屋にはいいにおいが漂ってきていた。
「ごはんよ」
エヴァさんの声で一家は再び統一され、元のオーストラリアとなった。
翌朝、カリステアス一家と一緒に、パースの北にある〈ヒラリーズハーバー〉へと向かった。パース郊外から北へ続くインド洋海岸は、壮大な夕陽が出現することから、サンセットコーストと呼ばれている。ヒラリーズハーバーはその最終地点として位置づけられる場所だ。
カリステアスさんの運転が荒いのには閉口したが、やがて、海が車窓越しから見えるようになると、僕は息をするのを忘れていた。なにせ、きれいな海と浜辺を誇ることで有名な国の海辺を初めて見たのだ。ハードル走に例えれば、一つめのハードルを超えたようなものだ、と勝手に思った。
週末ということもあり、浜辺は大勢の家族でにぎわい、ショッピングセンターやレストランは大盛況だった。ここでは七月の頭は冬なのだが、日本の冬ほど寒くはなく、元気な子供は海で遊んでいる。
肌寒さを感じながらイリニーと一緒に膝まで海に浸かった。「冷た!」と、思わず日本語で叫んでしまったが、小さな充実感が身を引き締まらせた。
日本の一般の海から比べると透明度があり新鮮な海水の印象だが、近くでよく見ると、想像通りの美しさじゃなかった。人がよく来る場所だし、モーターボートが頻繁に出入りするせいもあるだろう。けれども、インド洋という海は、どこか親近感の湧く海だと思った。空と海がゆったりと流れていて、そこに立っていると、自分が天地空海と融合していくような感覚になっていく。
レストランで新鮮な海の幸を味わい、浜辺でビーチバレーをしたり、隣接する小さなテーマパークでイリニーが遊ぶのを見守っているうちに、日が暮れてきた。
カリステアスさんが言った。「おまえに見せたかったのは、あれだよ」
ショッピングセンターから外に出ると、僕たちは黄金色の蜃気楼の空間にいた。
すごい――
信じがたいほど優しい黄金色が、空一面に広がるちぎれ雲に情熱を与え、静かにうねる海に安らぎを与えている。
全ての万物事象はその黄金色に包まれ、僕の心は形をなくしていた。
今、みんなが、同じ時間を共有していることがわかった。
「――すごかったな、あの夕日。あんなの初めて見ましたよ」
帰りの車の中、僕は興奮を抑えきれずにいた。
「パースの夕日は最高だろ」
カリステアスさんが言った。ついで、エヴァさんが微笑んできた。
「あなたにはもっと色々なものを観てほしいの。そして伝えてちょうだい、美しい景色を。多くの日本人にね。特に、好きな女の子にはね」
「はい」
やや複雑な表情をしているであろう顔で、僕は笑った。
少し、日本のことを想った。
その間も、車は悠々とハイウェイを滑っていった――
夕食を済まし、シャワーを浴びてから床につこうとした時、携帯電話が初めて鳴った。カンナからだった。
「ねえ、明日さ、みんなで〈ワイルドライフパーク〉っていう動物園に行こうと思うんだけど、護助君、どうかな?」
「動物園? いや、俺は……」
「行こうよ!」
カンナは強引だ。「せっかくパースにいるんだからさ、みんなで動物園行ける時に行っとこうよ! ねっ? いいでしょ?」
「あっ、ああ」
結局、カンナに押し切られる形で、行くことにした。どうやら、僕は断ることが苦手らしい。
翌日、僕たち日本人は〈カバシャムワイルドライフパーク〉で再び行動を共にした。
コアラやワラビーといったオーストラリア特有の動物が、広い空間の中でのびのびと飼われていて、開放感のある動物園だった。なかでも、ウォンバットはとりわけ可愛かった。〈となりのトトロ〉のあのトトロを、小さく凝縮させた感じの、ずんぐりした体型の動物で、抱いてみると意外に重い。しかも、そのウォンバットの尻からはウンチがはみだしていて、自分の膝の上に落としてくるのではないかと、僕は内心どぎまぎするはめになった。
オーストラリアでしか見られない動物とふれあっていくうちに、みんなと写真に収まったり、冗談も言うようになってきていた。
「いいよな、俺ももう少しオーストラリアにいたいよ」
剛が僕に、ふと言った。
いつの間にか、亮さんとカンナ、由美はずっと前の方にいて、僕と剛はその後を歩いていた。
僕は二十四歳、剛は二十三歳で、二人ともまだまだ多感な時期だ。
「三週間だもんな。そりゃ、もっといたいよな。仕事はきつい?」
「まあな。大工ってなあ、金はいいけどきつい仕事だかんな。まあ、親方が今回、俺のわがまま聞いてくれたから、そんな文句言えねえけどさ」
「なんでここに?」
「言ったじゃん。でかいものが見たかったんだ」
「そうか……でかいものか。ヌーディストビーチ行ってみる?」
「自信を失いそうだ」
「同じく」
そう言ってから、僕はエサを手にいっぱい取ってワラビーのエリアを駆けまわりだした。ワラビーたちはイメージと違い、バネを活かした跳躍はしないで、太い足と短い手を伸ばしながら、のろのろとエサにつられていく。僕は童心に帰ったように、その遊びに夢中になっていた。
剛も、同じようにエサを手に取って走り出し、そのエサをこっちに向かって投げ、はしゃぎだした。すると、他の三人も自然と僕たちに引き込まれて、こっちにやってきた。ワラビーみたいに単純な連中だ。
活発な人間とのろまな動物が、その一帯にまぬけな輪をつくりだしている。その時間はそれぞれにとって、自分が人間であることも、ワラビーが動物であることもあやふやになっていたように思う。
僕らはただひたすら笑い合っていた。
オーストラリアに来てから二週間ほど経ち、ついに、学校が決まった。
僕とカンナは〈EUセンター〉という所に、亮さんと由美は別の学校に通うことになった。
EUセンターは、他の学校よりも値段が安く、あまり金銭的に余裕がない僕とカンナにはうってつけの条件だった。学校は週明けから始まるので、僕たちは、週末に賑わう港町フリーマントルに遊びに行くことにした。
フリーマントルは、白人の入植以来、多くの囚人によって数々の建造物が建てられた、歴史のある趣深い町だ。その美しい町並みを歩いてみると、大きな監獄をはじめ、開拓時代の面影が色濃く残っているのを感じる。
僕たちは、浜辺にぽつんとある古い桟橋に腰を下ろした。インド洋が穏やかに煌めいている。
亮さんはこの中では一番最年長なのに、この日は一番はしゃいでいた。
「なんだかな、こっち来てから一気に子供になったような気ぃするわ」
彼は元々、大阪で会社勤めをしていた。婚約していた女性がいたが、三ヶ月前、彼女は去ってしまったという。
「それにしても、オージーって、昼間っからビール飲んでるし、のんびりしてるよね」
由美が言った。カンナは雑貨が気になってしかたないようだ。
「ねえ、日本じゃ考えられないよね。ちゃんと働いてるのかな……あっ! あれ見て! かわいい!」
カンナは由美をひっぱって、店内を物色しにいった。男たちも中に入ったが、十分も経たないうちに外にでた。
「女ってなあ、よくわからねえよな。なんでこんな小さな店にいつまでもウロウロできんだよ」
剛はいらつき気味だ。
「同感」
僕と剛はタバコをとりだし、火を点けた。こういう時、タバコほど頼りになるものはない。このメンバーでタバコを吸うのは僕と剛だけだ。
亮さんが言った。
「オーストラリアじゃ巻きタバコがメインらしいで。そっちの方が値段も安く済むってさ」
「そうなんすか? まあ、こっちのタバコは日本の三倍くらいは高いっすからね。そんならそうしよっかな」
まだ日本から持ってきたカートンタバコが残っているからいいものの、オーストラリアの普通のタバコは高く、ここの喫煙者のほとんどが巻きタバコを愛用している。
「あそこの店で売ってんじゃねえか? 行ってみようぜ」
剛も興味があるらしい。
雑貨屋の近くにあるニュースエージェンシーに入ると、予想通り巻きタバコが置いてあった。巻きタバコを買うのは初めてだということを何とか店員に伝えると、その店員はひととおりの道具を揃えてくれた。
葉っぱと紙とフィルター、それにローラーという、巻きタバコ専用の紙巻き機だ。赤毛の若い店員は親切にも、自分のタバコを取り出してタバコの巻き方を教えてくれ、紙巻き機を使わないで手でタバコを巻く方法も教えてくれた。
僕と剛はその一式を買うと、外に出てからさっそく試してみた。できあがったものはどちらもいびつなタバコだ。
「難しいなこれ。剛のやつなんか、水につけたみたいにフニャフニャしてんじゃん」
「おまえのだってそうだろ。でも、味はまあまあだな」
「なんにしろ普通のタバコより安いし、次元のタバコみたいでかっこいいじゃん。俺はこれで一年間生きるよ」
ようやくカンナと由美が戻ってきたので、今度はマーケットへと向かうことにした。フリーマントルマーケットは週末のパースの見所の一つらしい。
大道芸人が人だかりをつくり、多くの出店が市民の足をひきつけていた。
出店をひととおり見てまわると、剛が言った。
「サッカーボール買って、公園で遊ぼうぜ」
僕たちは、安っぽいユニフォームやらシャツやらが置いてある店で、十四ドルのサッカーボールを買い、公園で遊びはじめた。
他の連中は、僕のボールさばきに見入っていた。本当は、オーバーヘッドも見せたいくらいだ。でも、嫌みになりそうなのでそれはやめておこう。
「護助君、ほんとにうまいねえ」
「どうやって蹴ってるのお?」
女性陣は小学生のように、ひたすらつま先でボールを飛ばしている。剛と亮さんは筋がいい。
「バッジョみたいだな、おまえ」
「ほめすぎだよ」
「あかん、やっぱ護助みたいにうまくいかへん」
この時、不思議なぐらい、僕はサッカー部時代のことを思い出さないでいた。ただ、こんなことを思っていた。
――なんて、狭い考え方をしていたんだろう、俺は。日本人だろうと何だろうと、仲間は仲間じゃないか。
せり輝く海に面したフリーマントルの公園が、のんびりと僕たちの時を刻んでいった。
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