知りたがりのエルフと死にたがりの剣士(仮)

@chesyacat3980

第1話 プロローグ

「サクマ、どうやら遠出することになりそうね」

 俺の主人であるラーファは久しぶりに朝食の席に顔を合わせたときに言った。

「遠出をするのはいいが、髪の毛はボサボサ自慢のエルフ耳もしぼんでしまっているのに大丈夫なのか?」

 たしか、エルフ族は基本的に睡眠、食事はいらないそうだ。しかし、エルフの住む国の外ではマナが足りなく、耳までしぼんできたら俺たち人間で言う衰弱状態だったはず。

「なに、これを吸っていれば問題ないさ。それに今回は長旅になるからね」

 そう言うとマナを効率よく吸引するための薬タバコを口にする。

「それにしても、その容姿でタバコを吸っていると咎められないのか?」

「ははは、そんなことを気にするのは君の国ぐらいだよ。それにだね、今はしぼんでしまっているが、僕の立派な耳を見たらたいてい次の言葉は『呼び止めてすまなかった』か『お食事でもどうだい?』に変わるさ」

 前半はともかく後半は嘘だろう。このどこからどう見ても子供の彼女が――。おっと考えていることがバレていそうだな。かなりにらんできている。

「まぁ、君がどう考えているかはこの際置いておこう。君には今重要なことが二つある。まず一つは今すぐ僕に朝食を持ってくること。そしてもう一つは僕の分まで旅の支度をすること」

「支度をするのは構わないが、どういう目的だ?」

 そう言いながら俺は用意していた朝食にベーコンをつけたし彼女の前に差し出す。

「まぁ、そこは列車の中で説明するさ」

 ラーファがそう言って列車に乗り込んでまる経った。

 そろそろ、流れる景色も硬い座席にも飽きてくる。この遠出を提案した彼女はその目的も説明せず、窓際を陣取り、本を読むか、今みたいに窓、をじっと見つめながら時折手帳に何か書くのを繰り返している。

「なぁ、ラーファ。そろそろどういう目的で移動しているのか教えてくれ。この変化のない風景を見ているのも飽きてきたところでね」

 俺がラーファに向かってそう言うと彼女は手帳をとじ俺の方を一瞥し、また窓の方を向く。

「そうか、君にはこの風景が変わらないように見えるのか、僕にとっては変化が多く楽しいよ」

 彼女がそう言うと外を指差す。視線をその先に向ける。

 やはりそこはなんの代わり映えの無い平凡な農園が広がっているだけだった。

「それでどういう変化が起こる?」

「なんだ、わからないかい? 君の動体視力なら余裕だと思ったんだが」

 と彼女はもったいぶったように薬タバコをくゆらせた。

「よく見てごらん、あそこにスライムが見えるだろ?」

 そう言われよく目を凝らしてみると確かに数匹のスライムが這っている。

「それで、あのスライムがなんだ?」

「…………。とりあえず君が普段僕の講義を全く聞いてないことはわかったよ。いいかい、スライムというのは面白い生き物でね。その土地の事を事細かく教えてくれる。まずは色だね。この辺の個体はほとんどが緑色だが所々青色の奴がいるだろ、これはこの土地のPhがわかる。そうだな、ここの土地はわずかにアルカリ性が多いということだろう肥料を鷄ふんを使っているのだろう。あとはそうだね、粘度ぐらいはなんとかなるか、見たところ低いということはないだろう一定の形を保っているからね」

「なるほどね」

「まぁ、つまりこれで何かわかるかというと、うまい昼食にありつけるということだよ。君、次は降りる駅だ、早く荷物をまとめてくれ昼食を食べたらまた移動だからね」

「そうえば、まだ目的を聞いてないぞ」

「あぁ、そうだったね。僕たちは今からダーリスキンにあるバラン村に行くことになる」

「ダーリスキン? 俺の記憶が正しければ前の駅からのほうが近いだろう」

「それが僕たちの目的だよ、君。今回の調査依頼はこの村の主な輸送経路に異常が発生した」

「その異常とは?」

「ここ数ヶ月この経路を使った商人、御者が必ず行方不明になっているんだよ」

「なるほど、でもそれはその土地の警察の仕事じゃないのか?」

「そうなんだけどね。厄介なことに調査のために入る森がエルフ族の土地でね。いくら管理されてないといっても勝手に入るわけにもいかず、許可をもらうにしてももちろん許可が下りるわけないから、僕たちに回ってきたというわけさ。さぁ、無駄話もここまでにしてさっさと荷物を持っておくれ降り損ねるぞ」

 少しはぐらかされている感はあるが、彼女の言うとおりこれ以上話し込むと降り損ねるなんて間抜けなことになってしまう。すぐに彼女が広げた荷物を片付け列車を降りる準備をする。どちらにしても俺に拒否権は無い。ならさっさと従ってうまい昼食にありつくとしよう。


 確かに彼女の言うとおりうまい昼食にありつくことはできた。

 簡単なポタージュと鶏肉を入れたものだったのだが、どちらも素材がよかったのだろう鶏肉は程よい弾力がありその中に甘いジャガイモの甘味が鶏肉の甘味をさらに引き立たせる。あとはついてきたパンもなかなか良いものだった。外はサクサクとしていて、中はポタージュがしみこみやすいよう空気穴が多くしみこんだ時の歯ごたえを考えられているのだろう何もつけないで食べると弾力が強く固いのだがポタージュをつけるとちょうどいいモチモチとした弾力になった。

「なぁ? サクマ私の言ったとおりだろ? わかったらたまには私の講義をまじめに聞くことだな」

「はいはい、悪かったよ。それで今回の依頼を詳しく説明してくれないか?」

「そうだったね。とりあえずこの地図を見てくれ」

 と彼女は食後のコーヒーをすすりながら薬タバコに火をつける。

「まず列車でも少し話題にしたね。復習がてら一から説明しよう」

 彼女がそういうと右手の人差し指に、青白い光の膜が張られる。

「僕たちの依頼はこの都市から村に行く街路に起きている異常を解決すること」

 彼女はそう言いながら都市を丸く囲むと指先の青白い光がインクのように地図の上を漂う。

「記録によると発覚したのは二か月ぐらいかな。まぁ、僕の見解だともっと前からだと思うけどね。さて、これだけだと君の言う通り、この辺の自治体や警察に任せればいいだろう。しかし、ここ」

 地図の空白部分をぐるりと囲い中に『エルフ』と書いた。

「ここの空白部分がエルフ族の管理の土地ということになる。まぁ、正確にはこの村も街路もエルフの土地なんだろうけどね、元の地主がよほど物好きだったのだろうここら一帯は元の主によって解放されていた。だが、今回はこの解放されていない土地に入る必要がある、管理されていないと言ってもエルフ族が人間に立ち入りを許可するわけがないからね、そこで私に話が回ってきたわけだ。今回は表向きには私の個人的な理由で土地に入ることになる」

「なるほど、そこまでは理解したがラーファもエルフ族だろ、いいのか人間に協力して?」

 薬タバコを深く吸い込む。それに合わせて薬タバコの火が激しく燃える。

「ふうぅぅ」

 吐いた煙が俺の顔にかかる。

「ガホボォハボホォ! 何する!」

「はぁあ。本当に君は駄目だね。君の頭の中には何が入っているんだい? もしかしてだけど極東の島国の人間はみんなこうなのかい?」 

 とほかにも散々なじり続け、気が済んだのかラーファは次の薬たばこをくわえる。そして、火をつけると一呼吸おいて言った。

「僕はねエルフ族を追放された身だよ。そんな僕がエルフ族のお偉方たちと同じ価値観なわけがないじゃないか。もちろんエルフ族のお偉方たちから『この件にかかわるな』といういかにも上から目線な命令書が届いたけどね。少なくとも、僕は君たち人間たちのほうが親しき隣人だと思っている。面倒ごとは嫌いだけどね。僕にしか解決できないことなら僕は君たちに力を貸すことはやぶさかでないということだ」

 ラーファはその後ゆっくりと薬タバコをふかしながらゆっくりと一本吸い終わると店に備え付けられていた時計を確認する。

「さて、そろそろいい時間だ。駅に戻ろうか迎えが来てくれる時間だからね」

 俺はいつも通り会計を終わらせ、ラーファを追って店をでる。



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