第5話

『あぁ、こっちだよ』


ゆっくりと紡がれるその言葉は、落ち着きのある年配の方の声だった


しかし、いくら探してもその声の主は見つからない


「ど、どこ・・・?」


『だから、こっちだよ』


その言葉と同時に、湊のそばにあった岩が動き出す


岩はどんどんと上に登り、その近くにあった木々をなぎ倒す


そして、ある程度の高さになると、動きを止め、ゆっくりと目を開く


湊はその様子を呆気にとられながら見ていた


『初めまして。お嬢さん?』


岩、だったものはゆっくりと湊に顔を近づけながら、挨拶をする


しかし、湊はハクハクと口を動かすだけで、声を出すことができなかった


『もしかして、私のような存在を見るのは初めてかい?』


そういうと、岩だったものはゆっくりと元の位置に戻る


『これで怖くないだろう?』


湊はゆっくりとうなずいた


「・・・あ、あなたは?」


『私かい?私はここに住む、龍だ』


「りゅ、龍?」


『あぁ、もしくは、ドラゴンと呼ばれているものかな?』


龍はそういうと、ゆっくりと顔を持ち上げる


「でも、顔しかみえてないよ・・・?」


『あぁ、それは、地面に体が埋まっているからだよ』


「埋まってるの?」


『あぁ、だから、私はここから動けない』


龍は琥珀色の目をすっと細めた


『私の名前はテラ、君は?』


「わ、私は、湊。白間 湊・・・」


『湊か。良き名だな』


「そうかな・・・?」


『湊というのは、水が集まる場所という意味がある。生きとし生けるものが必ず必要とするもののなかにも、水が含まれる。それだけ、そなたが大切にされる、愛されるという意味を持って、つけたのだろう』

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