第6話デスヨネー
「伸太さん、伸太さん! 朝ですよ! 起きてください!」
容赦なくカーテンを開けるかのん。
一気に部屋の中に太陽の恩恵が降り注ぎ、安らぎの眠りから現実世界へと呼び戻される。
「ん~、眩しいよかのん。夏休みくらいもう少し遅く起こしに来てくれればいいのに」
「何言ってるんです。朝の涼しいうちに宿題を済ませて、あとゆっくりすればいい話じゃないですか」
「そのゆっくりする時間も、かのんさんは『勿体ない』って言って、お昼寝させてくれないじゃないですか?」
「それは伸太さんの意思が弱いだけです。本当に休みたいなら、私を無視しても休めばいいのですよ」
確かに理に適っているが、かのんを無視して隣でグーグー寝ろと言われても、折角遊びに来ているかのんに申し訳ない。
それに本当に眠いのではく、ただダラダラと休みを満喫したいというだけの事からそう言ってみてるだけの部分もあるし。
「さあ、起きて下さい。朝ご飯の用意も出来てますよ。食べたら今日の分の英語の宿題を仕上げて出かけましょう」
追い打ちをかけるように布団を剥がす。
今日は急いで制服に着替える必要がないから、パジャマを脱がされる心配もない。
着替えを見られるのはかなり問題があるので、お願いして部屋を出て行ってもらった。
「下の部屋で待ってますからね。早く来てくださいね」
少しだけぷぅっとして、ドアを閉めるかのん。
これだけ見ていると可愛らしいし、朝の起こすやりとりなんて本当は恋人同士じゃないの? なんて勘違いしてしまう。
もしかして告白なんてしてないが、かのんはそのつもりでいる……?
まだ出かけないからと、少し着古したTシャツに短パンといういで立ちで下へ降りる。
ダイニングではかのんと母さんが仲良く話しながら、のんきに麦茶なんて飲んでいた。
「僕にも麦茶欲しい」
「あら、おそようさん。今用意するわね。かのんちゃんは座ってて」
「いいえ、おばさま。私が入れてきます」
何だこの未来の仲良し嫁姑の図は。
昨日の夜寝る前に、仲良しの嫁姑に仲間外れにされる旦那が出てくるマンガを読んだから、二人がそんな風に見えてしまうのか?
まだ寝ぼけているんだろうな、と思っているとかのんが麦茶を入れて持ってきてくれた。
「ありがとう」
「いいえ。私もおかわりをいただこうと思っていたところなんで」
そういうかのんの手にはもう一つのグラスが。
グラスの表面には水滴がいくつも付いていた。朝に来て、このグラスで麦茶を飲んで少ししてから起こしに来ていたんだろう。
「おばさまがね、今日行くショッピングモールの中にあるファミレスの無料ドリンク券下さったの。お昼はかなり混むらしいから、少し早めにお昼に行くか逆に遅くに行くかにした方がいいとおっしゃってたわ」
ダイニングテーブルの僕の隣の席に座り直し、嬉しそうにかのんは言う。
やっぱり綿密に計画していただけあって楽しみにしているっぽい。
音子がいない分、余計に楽しみなのかもしれないが。
「じゃあ、先に昼にして、その後に買い物ってのはどう?」
「伸太さんがそれでいいなら。では朝ご飯は軽めにして、さっさと宿題を片付けて出かけましょう」
あ、やっぱり宿題は絶対なのか。
さすが優等生の風紀委員長サマ。
********************
朝食も終え、宿題もかのんの言う『今日の分』まで僕は出来なかったがそれなりに片付けて、早速ショッピングモールに出かけることにした。
僕もだけどかのんも着替えて用意してくるというので、準備が出来次第また僕の家に集合することになった。
「お待たせいたしました」
現れたかのんは、白いレースのあしらわれたワンピースにおおきなツバのついた帽子、涼し気なかごのバッグというスタイルだった。
一瞬どこのお嬢様かと思ったくらいに清楚で目を奪われた。
かのんだから似合う気もする。
これが音子だったら……うん、ちょっと違うな。
お嬢様というより、『頑張っておしゃれしてみました』止まりな普通の感じ。
「じきにバスの時間になりますわ、急ぎましょう」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
子供みたいにはしゃぐかのん。
やっぱりいつもと違う。そこまで何がかのんをこうさせている?
まぁ、悪いことじゃないし聞くのも野暮なんで、僕はそのまま付き合うことにしたが。
バスに乗ってもスマホを開いて『モールのこのお店に行ってみたいんですの』と、あれこれと今日回りたい店を指さしてはしゃぐ。
何だろう、かのんと居るというより、音子がのり移ったかのんと出かけている気分だ。
このあれこれはしゃぐ感じ、落ち着かない言動。まさに音子。
「どうしたんですの? 急に黙ってしまって。バスにでも酔いましたか?」
「いや、ちょっと考え事してたんで。そんなに一気に見て回れないから、今日はもう少し絞って店を回ろうよ。バーゲンが終わっても来れるんだし」
「そうでしたわ。ついホームページを見ているうちに回ってみたいお店が増えてしまったもので」
「こんなにいっぱい店があったら仕方ないさ。ファミレスに入ったら、ご飯食べながらでも決めて行こう」
音子と居るようだけど、このやりとり、何かデートっぽくていいなぁ。
ってこれ、紛れもなくデートだよな?
おしゃれして、二人きりで、彼女()と見たいもの見て、ご飯食べてって……。
そう考えると何か新鮮な気分になってきた。
かのんも『幼馴染と出かける』ではなく、『デート』として考えてるからこんなにはしゃでいるのか?
僕の中でますます『かのん、実は僕が好きでした』疑惑が上昇していく。
もし本当にそうならば、僕はどう返事をするべきなんだろうか。
素直に『好き』というべきか、『幼馴染としていままで通り』というべきか。
かのんのおしゃべりを聞きつつ、そんな事を考えていたらショッピングモールに着いてしまった。
さすがにまだ早い時間とあって、駐車場の車も少なく、中に入ってもそんなに客はいなかった。
ファミレスも同様で、ブランチにきている客が数組いるだけで待つこともなく余裕で入ることが出来た。
「伸太さんは何にします? 色々あって迷いますわね」
メニューを中央に広げて、かのんはあれこれと見ては迷い出す。
いっその事かのんが食べたいやつを二つ三つ頼んでシェアすればいいんじゃないかと思い、その提案をしてみる。
かのんも『そうですわね。伸太さんがそれでいいなら』と、嬉しそうに笑って幾つかに絞られていたメニューの中からさらに厳選しだした。
そんなに迷うなら、絞ったやつ全部頼めば? と言いたいところだが、僕にそんな財力も胃袋もない。
胃袋はかのんが見かけによらず大食らいなので、きっと残さずおいしく食べてくれることは間違いないんだが。
もしかのんと付き合うとなったら、やはりバイトとかしてデートの費用はキープしていた方がいいんだろうなぁ。
毎回割り勘とかっていったら、格好もつかないし、こういう時に『好きな物いっぱい頼んでいいよ』なんてセリフも言えない。
漸く決まったメニューを注文し、再びスマホでホームページを開いて行く店を決める。
「ここの店はやっぱり行きたいですわ。可愛い」
「いつもかのんが選ぶ服と違う系統だけど、似合いそうだね。ここ出たら最初に行ってみようか」
そんな感じで行く店と回る順番を決め、ファミレスを出る。
店内案内板を見て、最初に行くと決めた店の位置を確認して向かう。
「やっぱり画像で見るのと実際見るのとでは感じが違いますわね。質感が加わるともっと可愛らしさが増しますわね」
「ピンクって言っても白に近いんだ。これならかのんが着ても浮かない感じだね」
店頭に並ぶ服を手に取って、二人で『可愛い』だの『この色は私では着れないですわ』だのとショッピングを楽しむ。
本当にデートだな、これ。
キャミソールの一枚くらいだったら買ってあげられそうだな、と淡いブルーのキャミソールを手に取る。
裾のレースとバックのリボンがポイントのキャミソール。
これなら甘すぎず、かのんに似合いそうだ。
「かのん、これ……」
「ちょっと! なんで二人だけで出掛けてるのよ!」
「!?」
振り返ると音子。
温泉行ってるんじゃなかったのか……?
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