第14話 豹変

〜 リリィ マリン城 ラファエルの部屋 にて 〜


「きゃっ!」


ラファエルに突き飛ばされて転んでしまった。ラファエルはわらわがサリエルと出かけたことが許せないらしく、わらわを自分の部屋に無理やり連れ込んだ。


「何をするのじゃ!いくら婚約者とて妾は一国の王女。そのような無礼な行動をするのであれば婚約を破棄し、アクアマリン帝国との友好関係を断ち切るぞ!」


「サリエルは僕のものだ!お前なんかに渡すものか!」


ラファエルは般若と言っていいほど恐ろしい顔をしていた。サリエルに会う前のラファエルはこんな顔を一度も見せたことがなかった。それほどまでにメアリーが気に入ったのか、それともわらわに見せなかっただけで元々こうなのか…?


「サリエルは “物” じゃ無い!意思がある人間なんだ!それをソナタの勝手な都合で束縛するなど最低じゃ!」


「黙れ!!!お前に何が分かる!父上や母上は天才のミカエルばかりみて僕はいつも邪魔者扱いをしていた!婚約だって僕を国から追い出す口実に過ぎない!

『ラファエルがリオアント王国に行けばミカエルにこの国を任せられる』

という言葉を聞いた時の絶望がお前に分かるか!」


ラファエルはわらわの服を掴んだ。


「それだけじゃない。ミカエルは……ミカエルはリリィのことが好きだと言い出したんだ。リリィと結婚出来る僕が羨ましいって……。」


ラファエルは泣いていた。


「だから…だから、いつも僕のそばにいて僕の唯一の味方でいてくれるサリエルが…サリエルだけが僕の唯一の希望だったんだ。」


それでサリエルを奪おうとするわらわが憎いのだろうか?別にわらわはサリエルを奪う気など無いのだが…。


「それなのに…それなのにミカエルやお前は僕とサリエルとの仲を邪魔しようとした。そんなの許さない。僕はサリエルと一緒に居たいんだ。それを奪う奴なんて消えてしまえ!!!」


ラファエルは机の引き出しからナイフを取り出して構えた。わらわは部屋を出ようと扉に手をかけたが鍵がかかっていて開かなかった。


「ハハハ。面白い仕組みだろ。内側からはカードがない限り開かない仕掛けになっているんだ。母上がよくこの部屋に僕を閉じ込めたっけ。」


「わっ…わらわを殺そうと言うのか?そんなことしてただで済むと思ってるのか?」


ラファエルにはわらわの声は届いていないようだった。ふらふらと歩きながら妾に近づいてくる。


「やっ…やめて…。」


わらわは怖くなって泣き出してしまった。ラファエルがナイフを振り上げた。もうダメだと覚悟を決めて目を瞑ると


「やめて!!!」


と言う声とともにカランカランと言うナイフの落ちる音がした。


「サリ……エル?」


目を開けるとサリエルがラファエルの手を掴んでいた。


「逃げて!リリィお姉ちゃん!」


「でっ…でも!」


ラファエルはサリエルを突き飛ばして、床に落ちたナイフを拾おうとしていた。


「お姉ちゃん!」


サリエルの声でわらわは我に返った。妾はナイフを拾い上げ、ラファエルに向かって投げつけた。ラファエルが怯んだ隙にサリエルの手を取って部屋を抜け出し扉に鍵をかけた。


部屋からは扉を懸命に叩く音とラファエルの声が響いていた。しかし、カードはさっきサリエルが壊していたし、従者達にこの部屋には絶対に近づくなとラファエルが釘を刺していたからしばらくは誰も来ないだろう。


妾は《わらわ》はサリエルの手を引いて城の廊下を走った。

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人魚の願い 影山 雪奈 @epdppzkhm3

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