第10話 秘密

〜 ラファエル アクア海 砂浜 にて 〜


「はぁ…。」


僕は、海を見つめてため息をついた。あれからミカエルに謝ろうと思い部屋を訪れたが開けてくれなかった。仕方がないから少し頭を冷やそうと城の近くの海に来ていた。


「ここのいらしたのですね、ラファエル様。」


振り返ると、サリエルが心配そうな顔をして立っていた。


「ハクさんにラファエル様のご様子を見てくるよう仰せ使いましたので探していたのです。」


「そうか…。」


サリエルは僕の隣に座ると静かに歌い出した。どこか寂しげで美しいその歌声は、僕の心を癒してくれた。


「この歌、お母様がよく歌ってくださったんです。だから聴いているとなんだか心が癒されるような気がして…。」


「サリエルはお母様が好きなのかい?」


「はい。大好きでした。もっとも今は剥製にされて展示されていましたけど……。」


「じゃあやっぱりサリエルは……」


「はい。人魚の住まう國、アクアブルー王國女王で、人魚です。水族館に展示されていたのは私の母、マリアです。」


「薄々気づいてはいたんだ。サリエルがあのとき僕を救ってくれた人魚なんじゃないかって。でも、それを言ってしまったらサリエルが遠くに行ってしまう気がして…。」


「……私は、あと7日ほどで泡になって消えてしまうのです。人間になる代償として寿命の殆どを魔女に捧げてしまったので私の誕生日までしか生きられないのです。妹には泣きながら、離れたくないと言われました。それでも私は貴方に会いたいと願いました。そのためならばどんな代償も支払おうと……。だから私は最後まで貴方のそばにいます。

たとえ泡になって消える運命さだめだとしても私は貴方との思い出を忘れない……。」


「そんな…。僕の為なんかに寿命を捧げるなんて……。」


サリエルは僕をそっと抱きしめた。


「貴方のためだから寿命を捧げたのです。私はあの時聞いた美しい歌声に惹かれたのです。歌を歌う貴方がとても美しかったから…。他の人魚じゃ駄目なんです。貴方じゃないと駄目…。それに貴方はもう一度お母様に合わせてくれた。私はそれだけで幸せなのです。」


本来サリエルは女王さまとして何一つ不自由なく妹と共に幸せに暮らしていたのだろう。それを僕は壊してしまった。サリエルはもう長く生きられないというならば、最後くらいいっぱい我儘を聞いてあげよう。それが僕にできる唯一の償いだ……。


「ねぇ、サリエル。僕と約束してくれないか?サリエルはこれから誕生日の日までいっぱい我儘を僕に言うんだ。僕はなんでも叶えてあげる。そしてサリエルの誕生日には盛大なパーティーを開いてあげるよ。だから、約束して。最後まで、サリエルには笑顔でいて欲しい。」


「もちろん約束します。私はいつまでも貴方のそばにいるし、笑顔でいると…。」


そう言ってサリエルと指切りをした。

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