第9話 水族館

 〜ラファエル アクア城 バラキエル庭園にて 〜


 僕は仕事がひと段落ついたのでこっそり自分の部屋の窓から飛び降りて庭園まで歩いて行った。


「やぁサリエル。仕事はどうだい?もし暇ならどこかにこっそり遊びに行こうよ。」


 サリエルは掃除をする手を止めて振り返った。彼女がこの城に来てから3ヶ月が立ったが、未だに彼女に関する情報は出てこなかった。彼女は今、『サリエル』という新しい名をもらいハクの養女としてこの城で暮らしている。僕はサリエルの事かすっかり気に入り、よく2人で仕事をほったらかしてお忍びで街に遊びに行ったりした。


「お仕事の方は大丈夫なのですか?」


「大丈夫、大丈夫。大臣たちに押し付けてきたから。」


「いつも押し付けていたら、大臣さんたちがかわいそうです…。」


「いいんだよ。彼らはそれが仕事なんだから。そんな事より今日は水族館に行こうよ。」


「水族館、とはなんですか?」


「行ってみればわかるよ。さぁ、いこう。」


僕はサリエルの手を取って植木の隙間をくぐり抜けて城を抜け出した。


水族館に着くとサリエルは目を輝かせていた。


「わぁ、お魚さんがいっぱいです!」


「サリエルは魚が好きなのかい?」


「はい!大好きです!」


こんなに嬉しそうなサリエルの顔は見たことがなかったので正直僕まで嬉しくなった。


しばらく僕達は、雑談をしながら水族館を見て回った。おみやげ屋さんで水色と桃色のイルカのキーホルダーを買ってあげたらとても喜んでくれた。そして水色のキーホルダーを僕の服につけて


「これでお揃いだね」


と笑ってくれた。


帰り際に、せっかくだからと世にも珍しい人魚の剥製を見せてあげることにした。


「ほら、見てごらん。本物の人魚の剥製さ。綺麗な桃色の髪をしているだろ?漁師がたまたま捕まえたんだ。」


サリエルはそれを見ると目を丸くしてなぜか泣き出してしまった。


「どっ、どうしたんだいサリエル?もしかして人魚は嫌いだった?」


少しの間あやしているとようやく落ち着いたのか、顔を上げて


「ごめんなさい。急に泣き出してしまって…。」


と謝ってくれた。


「僕の方こそごめん。人魚が嫌いだって知らなくて…。」


なんとなくしんみりとした雰囲気の中僕らは城に帰った。植木をくぐって城に入ると、ミカエルが僕の服を掴んで怒ってきた。


「兄上!どこに行っていたのですか?!城のどこを探してもいないから兵士達総出で探し回っていたんですよ!それなのに兄上は呑気に水族館で遊んでいるなんて許されると思っているんですか!だいいち、兄上にはリリィ様という婚約者がいらっしゃるとあれほど申し上げたでしょうか!それなのにサリエルとばかり仲良くして…。」


「そんなの僕の勝手だろう。だいたいあの婚約は母上が勝手に決めた事。僕はリリィの事なんて愛していない。そんなにリリィの事が気になるならお前が結婚すればいいじゃないか。」


パン!


急に頬に痛みを感じて驚いていると、ミカエルは僕を突き飛ばして、


「兄上の事などもう知らない!そんなに言うならサリエルを連れてどこか行ってしまえ!もう2度と城になんて帰ってくるな!この城は僕と父上のものだ!」


と叫んで走って行ってしまった。


「おっ、おいミカエル!」


流石に言いすぎたと思い追いかけようとすると、ハクに服を掴まれた。


「ミカエル様は、リリィ様の事がずっと好きだったのです。その気持ち…少しお察しください。」


そう言われて僕ははじめて自分がしたことの重大さに気がついた。

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