第8話 お姉様

〜 ラファエル アクア城 使用人室前 にて 〜


「どうだった?」


「記憶を失っているみたいで、自分の名前さえ覚えていないようです。」


「そっか…うーん、兵士達に行方不明者が出ていないか確認に行かせているんだけど一切彼女に関する情報が入ってこないんだよね。」


「別の国から旅行に来ていたのではないでしょうか?」


「でもあの髪の色は間違いなくこの国の者の血が入っているはずなんだよね。あんなに綺麗に住んだ水色の髪なんて初めて見たよ。」


「でしたら人攫いひとさらいおそわれたのかもしれません。」


「確かに服着てなかったからね。よし、その辺りも含めて探してみるよう兵士に頼んで来てもらえないかな?」


「かしこまりました。」


そう言ってハクは一礼すると、アクア隊隊長、アランとマリン隊隊長、マリアの方へと歩いて行った。


「うーん。彼女があの時の女性かどうか気になるし…ちょっとだけ部屋に入っちゃ駄目かな…。いやでも女性の部屋に入ったなんてバレたらミカエルに怒られるしな…。」


しばらく部屋の前でウロウロして考えていたが、どうしても気になってこっそりはいる事にした。


コンコンコン


「アクアマリン帝国第一皇子、ラファエルと申します。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


……返事がない。なんだかまた倒れていないか心配になって、そっと部屋に入った。


「あの…。」


「え?あっ…ごめんなさいラファエル皇子。少し考え事をしていて気づかなくて…。何かございましたでしょうか?」


「特にはないんだけど、ノックしても返事がなかったからまた倒れているんじゃないかって心配で。体の具合は大丈夫?」


「はい。もう大丈夫です。」


彼女は僕に向かって微笑んでくれた。顔色も良くなったし大丈夫そうだ。


「なら良かった。あっ、そうだ君の記憶が戻るまでこの城で侍女として働かない?この間侍女長のハクが侍女の数をもっと増やしてほしいみたいなこと言ってたから、君たさえ良ければ働いてくれないかな?もちろん嫌なら別にいいんだけど。」


彼女ともっと一緒にいたくてつい嘘をついてしまった。彼女があの時の女性かどうかはわからないけど、お姉様と同じ雰囲気をもつ彼女のそばにいるとなんとなく落ち着く気がした。


「それじゃあ僕はそろそろ行くね。侍女の件はのんびり考えてくれていいから。」


名残惜しかったが流石に部屋を出ないと、ハクが帰ってきてしまうだろうと思い扉に向かった。


「あっ、あの!わたしを雇っていただけませんか?家事でも掃除でも何でもします。だからお願いします。しばらくここに居させてください。」


振り返ると彼女が頭を下げていた。その姿がお姉様にそっくりで一瞬ドキッとしてしまう。


「ありがとう。それじゃあハクに伝えておくね。」


僕はなんとか笑顔を作って、彼女に手を振ると部屋を後にした。彼女は笑顔で手を振り返してくれた。やはり何処と無く彼女はお姉様に似ている。


「お姉様……。」


僕はぽつりと呟いて、壁の絵を見上げた。


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