第5話 旅立ち

 〜 メアリー アクアブルー王宮 裏門前 にて 〜


 私は今、王宮の裏門の前にいる。最期のお別れをしに、エミリアとアンが門まで送ってくれた。


「…本当に行かれるのですね。」


「ええ。薬、ありがとうエミリア。」


 エミリアは、悲しそうな顔で私を見つめていた。


「お姉様、私必ずこの國を守る立派な女王様になってみせます。だから、この國のことは心配なさらずに思う存分楽しんできてくださいね。」


「この國の事なんて何一つ心配してないわ。だって、私の自慢の妹がこの國を守ってくれるんですから。」


「お姉様…。」


 アンは涙をこらえて必死に笑おうとしていた。


「受け取ってください。私の宝物のペンダントです。」


「これって、アンが一番大切にしていたものじゃない。」


アンが握っていたのは、可愛らしい鈴がついた桜貝のペンダントだった。お母様に買ってもらったものらしく、いつも大切に保管していた。


「一番大切にしていたからこそお姉様に持っていてほしいのです。これを私だと思って大切にしてください。」


 そう言ってアンは、私の首にペンダントをかけた。


「ありがとう。大切にするわ。」


 アンは泣きながら、嬉しそうに笑った。この笑顔も、もう見れないのだと思うと少し寂しかった。これ以上ここにいたら、私は泣き出してしまうと思い、


「ふたりともありがとう。私はみんなのことを決して忘れません。4ヶ月後、泡になってこの海に帰ってきたら、その時はよろしくね。じゃあ、さようなら。」


 と言って、二人を抱きしめてから王宮を出た。振り返ると泣いてしまいそうだったから、必死に泳いだ。私は決して忘れない。絶対に、忘れたくない。


 砂浜に着くと、私は小さな小瓶を取り出した。小瓶はまんまるのお月様に照らされてキラキラ光って綺麗だった。


『ときの〜なかの〜ブランコ〜 やさしく〜ゆめを〜かなでる〜♪』


 月を見つめて、お母様に教わった子守唄を口ずさんだ。いつも眠れない時は、お母様が歌ってくれた懐かしい子守唄。この曲を歌うと、何だかとても落ち着いた気分になる。


 歌い終わると、ガラスの小瓶の蓋を開けて薬を飲んだ。途端に体に激痛が走り、その場に崩れ落ちた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ………。」


 あまりの痛みに叫んでしまった。暴れまわったせいか、うろこが剥がれて私の周りに散り落ちた。苦しさのあまりだんだん意識が遠のいて……


 意識を失う直前、最後に聞いたのはアンがくれたペンダントから鳴ったチリーンと言う鈴のだった……………。

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