第4話 さようなら

〜 メアリー アクアブルー王宮 自室 にて 〜


私はガラスの小瓶を見ながら、お母様に教わった先代の王女の事を思い出していた。私は声を失わない代わりに次の誕生日までしか生きられない。それでも私は会いたかった。あの美しい声を持つ人間に……。


コンコン


「お姉様、入ってもいいですか?」


「ええ。いいですよ。」


扉越しに返事をするとアンが何故か涙をこらえて入ってきた。


「どうしたの?アン。」


「お姉様……行かないですよね?」


「え?」


「人間のところなんて行かないですよね?」


「っ!なっ…何のことかしら?」


「とぼけても無駄です。私、聞いていたんです。エミリアとお姉様が話しているのを…。」


「……なら、隠し通せませんね。」


「お姉様…どうして?どうして人間なんかの所に…。」


「綺麗な歌声に惹かれたのです。あの日聞いた歌声をもう一度聞きたいのです。」


「歌声を聞きたいのなら、綺麗な声を持つ人魚に歌って貰えばいいではないですか。お姉様まで先代の王女のように泡になって消えてしまうなんて私耐えられません…。」


アンは涙を落とした。確かに、アンの言う通りだ。でも、それだけじゃない。他の人魚じゃ何か足りない。あの人間じゃなきゃダメなのだ。


「ねぇ、アン。先代の王女様はどうして人間を殺さなかったのか分かる?」


「……人間を好きになった…から?」


「そう。私も同じ。あの人間を好きになってしまったの。」


「……」


「ごめんなさい、アン。あなたが嫌いなわけじゃない。でも、私……。」


「わかっています。お姉様が私を愛してくださっていることなんて。私だけじゃない。エミリアや従者達、たみの事もみんな愛してくださっていることくらいわかっています。普段絶対に我儘や嘘を言わないお姉様が、中途半端な思いで人間になりたいなんて言わないとわかっています。」


「アン…。」


「お姉様が望むなら…私はそれに従います。私はお姉様の幸せになれるならそれで良い。お姉様が私を愛してくださっているように、私もお姉様を愛しているから。」


「ごめんなさい。アン。」


「謝っちゃダメです。お姉様は女王様なんですから、すぐに頭を下げちゃいけないんです。せっかくの旅立ち何ですから、もっと胸をはってしっかりしていないとダメなんです。みんなが不安がります。」


「そうね、ありがとうアン。」


「もし…人間になっても、私の事覚えていてくれますか?」


「もちろん。貴女は、この國の立派な女王様になる私の大切なたった一人の妹ですから。」


そう言って私はアンを抱きしめた。アンは泣いていた。


「うぅ…私も…私もお姉様のこと絶対に忘れません。大好きです。お姉様。」


私はそっとアンの髪を撫でて、


「ありがとう……。」


と呟いた。

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