第3話 禁忌の薬

 〜メアリー アクアブルー王宮 エミリアの部屋 にて 〜


 私から話を聞き終えたエミリアは、古い本を開いに何かつぶやいていた。


「一応探すことはできそうです。ですが、女王様は人間と関わることが許されぬ身。居場所が分かっても得することなどありませんよ?」


「…でも。それでも私は知りたい。もしかしたら、人間と関わることが許される世界を作れるかもしれないし先代の姫が飲んだ薬が開発されるかもしれない。少しでも可能性があるなら、私は諦めたくない。もう一度私はあの人間に……会いたい。」


「……分かりました。そこまでおっしゃるのなら、わたくしが開発した薬を差し上げましょう。」


「薬?」


「はい。人魚が人間になれる薬です。まだ試作段階の薬ですが…。」


 そう言ってエミリアは、鍵のかかったチェストから小さなガラスの小瓶を取り出した。中にはキラキラ光る紫色の綺麗な液体が入っていた。


「本当にこのお薬を飲めば人間になれるのですか?」


「はい。しかし、この薬には欠点があるのです。」


「欠点?」


「はい。その薬を飲んで、人間の姿になったまま誕生日を迎えてしまうと泡となって消えてしまうのです。一度呑んでしまったらもう二度と人魚には戻れません。ですから、人間になってしまったら1年も生きられないのです。」


「っ……。」


「薬はお渡ししておきます。決めるのは女王様本人です。どちらの選択をなされても、わたくしは女王様を責めません。」


 そう言ってエミリアは震える私の手を取って、そっと瓶を手のひらに乗せた。


「ねぇ…エミリア。」


「はい。何でしょうか?」


「貴女はどうして…どうしてこの薬を作ろうと思ったの?」


「そっ…それは……。あっ、アレです。この國で罪を背負ったものに罰を与えるためです。」


「罰?」


「はい。人間の世界にある島流しと呼ばれる罰の与え方を参考に考えたのです。罪深き人魚に誕生日まで猶予を与えて、それまでに罪を償えれば人魚に戻る薬を与えて……。」


「さっき貴女は一度人間になったら人魚には戻れないと言った。それに、誕生日なんて人魚ひとそれぞれ。猶予の時間がバラバラで不公平です。第一、陸で人魚が何をしているかなんて我々人魚には判別できません。」


「そっ…それは……。」


「貴女はただ、私から王の座を奪いたいだけなのではないのですか?」


「そんな!めっそうもございません!わたくしはただ……。」


「もう…いいです。少し頭を冷やします。ごめんなさい。エミリアは私にチャンスを与えてくれただけなのに疑ってしまって……。」


「女王様…。」


「ありがとう、エミリア。この薬はいただいていきます。貴女にも色々事情があるのでしょう。私がこの國を去った後、貴女が取る行動についてはこれ以上言及しません。でも…お願します。どうかあの子だけは…アンだけは殺さないで…。」


「約束します!何があっても王女様だけは絶対に殺しません。それに、王の座を奪うようなことも一切いたしません。もしそんなやからが現れたら、わたくしが責任を持って排除します!」


「そう…。ありがとう。私はその言葉を信じます。」


 私はエミリアを疑ってしまった事を恥ずかしく思い、エミリアの部屋を後にした。


「ふぅ。さすが女王様。勘が鋭い。今度はもっと上手く嘘がつけるように演技の練習をしなくては…。」


「……………。」

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