6日目
敦君は、とても優しい声で
「神林は、俺のことが好きなのか?」
と。聞いてきた。
私は素直に
「好きだよ」
と答えた。
そしたら、敦君は、少しの表情は暗くなった。
そして、今度は、悲しそうな声で
「俺なんかでいいのか?」
と聞いてきた。
「うん、私は、なんかじゃなくて、敦君がいいんだよ」
「…………でも、俺もうすぐ死ぬんだぞ」
「知ってる。それでも、私は敦君が、君のことが好きだよ」
私は、やっと自分の想いを伝えることができた。
「ありがとう。その気持ちは、俺としても、とても嬉しいからね、知ってたか、俺が神林のこと好きだったってこと?」
私は、固まってしまった。
今、敦君から衝撃の事実を知らされて。
………敦君も私のこと好きだったんだ。
それなら、もっと早く言っていればよかったかな?そう思いはしたけど、でも、そんなことはもしもの可能性であって、もし私が早くに敦君に自分の思いを伝えていたのなら、敦君は私のことを気遣って、私と会わないようになったかもしれないのだから。
もしもの話しを考えるのはやめて、今ここのあることをしっかりと目に焼き付けておこうと思った。
「…………でも、やっぱり、君は早く俺のことを忘れるべきだと思うよ。だって──
敦君は、なにも止めに入らなかったら、このまま自分のことを忘れないと、いろいろと悪いことが起こると言い続けるのだと思ったから、私は
「『でも』、『だけど』、『だって』は禁止」
「いや、でも」
「私、『でも』は禁止って言ったはずなんだけどな?」
今の私は悪魔の魔女にでも慣れそうな気がした。
私が、何故敦君に『でも』『だけど』『だって』を禁止したのか。
それは、『でも』『だけど』『だって』は接続詞だから。
接続詞とは、言葉と言葉を接続するもの。
それは、つまり、接続詞を使えば話しは幾らでも続けることが出来るってことなのだから。
だから、私は、『でも』『だって』『だけど』を禁止した。
敦君にもその私の思いが伝わったのかは分からないけれど、「わかったよ。『でも』『だけど』『だって』は使わないよ」
と言ってくれた。
それから、私との間は沈黙が続いた。
これで私は少しだけわかったことがあった。
『でも』『だって』『だけど』を禁止すると、話しをするのって難しいのだなーと。
普段の会話ならば『でも』『だって』『だけど』を使わなくても話しをすることは難しくないと思う。
でも、今は違うのだ。
今の敦君は、話すこと全てにネガティブから入ってしまっている。
そんな状態で、『でも』『だけど』『だって』を使わないとなると会話することは難しいのだと思う。
お互いになにも話さない時間が長引いたからなのか、私は、敦君とデートしているという妄想をしていた。
妄想の中では、敦君とショップモールに行って私の服を選んでもらったりして、楽しい時間を過ごしている。
そんな妄想をしていたから、私はこんな考えを思いついたんだと思う。
──1日私の彼氏になって貰おうと。
私は、その考えを思いついてからすぐに敦君に提案、もといお願いをした。
「ねえ、敦君。私の1日彼氏になってくれないかな?」
と。
敦君は、とても驚いていた。
「い、1日彼氏!?」
敦君の声が上ずっていて、凄く笑えた。
「ふふ、そう。1日彼氏。それなら、大丈夫だよね?」
「いや、でもさ」
「あ!今でもって言ったね」
「言ってないから!それは、たぶん神林の聞き間違いだって!」
敦君は、顔の前で、手を振りながら言った。
……ふふ、ごめんね。私は、難聴系主人公じゃないからちゃんと聞こえていたんだよね。
やっぱり、今の私は、悪魔の魔女になれる気がするかも。
………でも、今の敦君は面白いからもう少しだけからかってみようかな?
「えー、それって本当?」
「本当、本当」
「そうかなー。私には、きちんと聞こえたんだけどなー」
「そ、それはだから、神林の聞き間違いだって!」
「そう?実はね、さっきの会話録音していたんだよね」
そう言いながら、スマホを自分の顔の前の出した。
そしたら、敦君は意外にもすぐにさっきでもって言いましたと言った。
私としては、もう少しだけからかおうと思っていたから、少しだけ寂しかったけれど、これで私は無事に敦君の彼女になれたのだからよしとしよう。
「それで、1日彼氏って具体的になにをやればいいんだ?」
「まだ、それは考えてないから…………今から一緒に考えよっ」
敦君が彼氏になったらやりたいと思っていたことは沢山あったのだけど、でも、その私がやりたいと思っている事は、全部とは言わずとも大体が、今できることじゃないから。
それなら、一緒にやることを考えるのは楽しそうだなーと思ったから。私は、そう敦君に聞いてみた。
「うん、それいいね。……………今の神林1人に考えさせたら、大変なことになりそうだし。…………今の神林って悪魔の魔女みたいかも」
敦君は、最後の言葉は、誰にも聞こえないと言ったようだけれど、しっかり私に聞こえたんだよね。
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