5日目→6日目

ふと、時計を見てみると、もう20時を回ろうかとしていた。

私は、そんなにも時間が経っていることに驚いたのだけど、それは彼も同じだったようで。

「楽しい時間ってすぐ経っちゃうもんだよね」

と笑いながら言ってきた。

その笑顔が無性に、可愛らしくて、私の心臓はドキドキした。

「本当はさ、もうこんなに遅い時間だから、俺が家まで送って行くよって言いたいところなんだけどさ…………」

敦君は、どこか言いにくそうにしていた。

だから、私は

「別にいいよ。私1人でも大丈夫だからさ」

「本当ごめん!………なにか、償えることってあったりする?」

敦君は、そう私に問うた。

……償えること……ってなんだろな。別に敦君は悪いことをしてないのに、償うことなんて言われてもね………

「別に私に償うことなんてしなくていいよ………って、今のなし!」

私が今1番彼に言いたかったことがあることに気がついたにだった。

「あ、明日も来ていいかな?」

私は、そう聞いた。

何故なら、私はまだ敦君に自分の想いを伝えていないのだから。

彼は少しだけ、考えたあと。

綺麗に揃った歯を見せて、笑った。

そして、

「勿論いいよ。それに、俺も嬉しいからさ」

「ありがとう!」

私も今できる精一杯の笑顔を返した。

そして、私は、敦君の家を後にした。

玄関を出る直前に敦君のお母さんからこんなことを言われた。

「明日も、待ってるからね」

と。

私は、それを聞いた時は、なんで知っているのだろうと驚いたけれど、

「はい」

と返した。

次の日。

私の気持ちは浮わついていたのだと思う。

今日、また敦君と会えるんだと思うと。

だから、朝起きて、リビングに入るなり、お母さんが、なにかいいことでもあったの?

と聞いてきた。

それに私は

「うん、あったよ。今日もね、敦君の家に行くんだ!」

と答えた。

そんな私の姿を見たからなのか、お母さんの表情がもの凄く柔らかいものになっていた。

朝御飯を食べ終わったあと、私は、巫女に電話をしていた。

「ねえ、巫女、服どうすればいいと思う?」

『いやー、私に聞かれてもね、わかんないけど………でもまあ、自分が可愛いと思える服ならいいんじゃないかな』

「そう?じゃあ、そうするね」

そして、私は、着る服をどれにするか、クローゼットを開けた。

クローゼットの中には、たくさんの服が入っていた。

………あれ?私って服こんなに持っていたっけ?

と思わせるぐらい多かった。

だから、可愛いと思う服も多くて思いのほか時間がかかってしまった。

私は家の玄関から出てから走った。

別に敦君と何時に行くとかそういう約束をしていないのに。

でも、唯純粋に早く敦君と会いたいと思ったから。

そして、敦君の家の前に着くと着ていた服が乱れてしまっていた。

それに、髪の毛が額に張り付いて、気持ち悪い。

……お風呂入りたい。

でも、敦君に早く会いたいから走ってきたんだからこればっかりは仕方がないこと。

そして、私は、ハンカチで汗をふき、そして、乱れた服を綺麗にしてから、インターホンを押した。

私を出迎えてくれたのは、敦君だった。

そして、敦君はニッコリ笑ってから

「やあ、来てくれたんだね。ありがとう。さあ、入って」

と言った。

「うん」

敦君は、私をまず始めのリビングに案内してくれた。

「お茶出すから、少しそこで座っていて」

敦君が、そう私に言ってきたから勿論私は、いいよと言ったのだけど、敦君は俺がやりたいからと言って、私にはやらしてくれなかった。

そして、敦君が出してくれた、紅茶を一緒にリビングで飲んだあと、敦君は私を自分の部屋に案内してくれた。

敦君の部屋からは、昨日と比べものにならないくらいの荷物たちがなくなっていた。

私が、なんでこんなに物がなくなったの?と聞こうとする前に敦君が言ってくれた。

「神林さ、昨日俺のお母さんから聞いたんだよね。俺の命がもう余りないってことを」

敦君の声には、刺があるように感じた。

「うん、聞いたよ。確かに、昨日敦君のお母さんから」

「それっていつ?」

「敦君の部屋に行く前に。リビングで、敦君のお母さんに言われた」

「そう、それでお母さんはなんて神林に言ったの?」

敦君の声は、私が今まで聞いたことがない程の、低くて、それに凄く刺があって、私は初めて、敦君のことを怖いと思ってしまった。

本当は、今話したくなかった。

でも、今話さなかったら、たぶん敦君は今すぐにでも、私をこの家から追い出すんだと思う。

だから──

「敦君のお母さんには、まず私に敦君のことが好きなのかと聞かれて、私は、好きですと答えた。そうしたら、敦君のお母さんは、私に言ってくれた。敦君がもうじき死んでしまうのだと」

私は、正直に答えた。


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