5日目

時間は流れて、放課後。

私は、今敦君の家に向かっている最中である。

………いるかな?もし、いなかったらどうしよう。

そんな不安が沸いてきてしまう。

もし、いなかったらとかそういう負の感情しか出てこない。

そして、遂に敦君の家の前まで来てしまった。

私の心臓はバクバクしていた。

さっきまで感じていた不安がなくなったみたいに、もうすぐ敦君会えると考えるといても経ってもいられなかった。

だから、私はすぐにインターホンを押した。

私がインターホンを押して少したってから、玄関の方へ歩いてくる音が聞こえてきた。

そして、ガチャリという音と共に、とても優しいそうな女の人が出てきた。

そして、私の存在に気づくと

「あら、敦と一緒の高校の子かしら」

そう、まだこの時は私は敦君のお母さんにもお父さんにも会っていなかった。

だから、私が誰だとはわからず、制服で判断したのだろう。

………少しだけ淋しい気もするけど、仕方がないことだよね。

「はい、そうです」

「そう。あ、お見舞いにでも来てくれたのかしら?」

敦君のお母さんは、どこか陽気な感じに言っていたけれど、もう敦君のお母さんには分かっているはずなのだ。

自分の息子がもうすぐこの世からいなくなってしまうことを。

それでも、こうして敦君のお母さんは誰にも悟らせまいとしてくれているのだから、ここは素直にはいと答えるべきであろう。

「はいそうです」

「ありがとうね」

敦君のお母さんは、私に向かって微笑んでくれた。

そして、私はリビングへ案内された。

「少しだけ汚いけど、そこは目を瞑ってね」

敦君のお母さんは、そう言った。

こういうのが、社会的には普通ということは分かっていても、自分が汚いと思う汚さより綺麗だと自分のことが情けなくなるのは私だけだろうか。

「それと、そこに座ってくれるかしら。今からお茶とお茶請けを作るから」

「はい」

部屋にあった時計を見てみると、16時30分になろうかとしていた。

少ししてから部屋中に甘い香りが漂うようになっていた。

……クッキーでも作っているのだろうか。

私は、この時思うのだ。

これが、未来を変えることになるじゃないかって。

当然私が知っているなかで、敦君のお母さんとこうして、お菓子を作って貰うなんてことはしていない。

………たぶん、これは未来を変えることはないのだろう。

だって、自分で言うのは、とても胸が苦しくなるのだけど、中島敦という人がこの世からいなくなることは、もう確定事項であって、変えることのできない事実なのだから。

もし、私が敦君の病気を治すことが出来るとしたら、未来を変えることは容易だったかもしれないけど、生憎私は、敦君の病気を治すことなんてできない。だから、これは単なるもしもの話し。

でも、私はそのもしものことを考えてしまう。

もし、私が敦君の病気を治し、そして元気な姿でまた前みたいに話せるようになっていたらって。

私は、たぶん時間は掛かれど、彼に告白をする。そして、彼はその告白を受け取ってくれる。そして、結婚する。

それは、たぶんもの凄く楽しいことで、毎日が、薔薇素晴らしい色なのだと思う。

私が毎日愛情を込めて作った弁当を食べてもらって、そして美味しかったよと言ってもらう。

そして、子供を授かって…………こんな未来になったのなら本当にいいのにな……

そんなことを考えている内にクッキーが出来たみたいで、紅茶と一緒に持って来てくれた。

「粗茶ですが、どうぞ」

「ありがとうございます」

紅茶からは、とても甘い香りがした。

それに私が紅茶を見るとこのタイムリープするときも紅茶を飲んだなーと思い出した。

そして一口飲む。

それは、あの時の紅茶よりも格別の美味しかった。

「それで、貴女は敦とどんな関係なの?」

敦君のお母さんが突然聞いてきた。

ここで、彼女です!と言えたらよかったんだけど生憎言えない。

だから、私は仕方がなく

「敦君のクラスメイトの神林琴葉と言います」

「琴葉ちゃんか。それで、なんでお見舞いになんで来てくれたの?」

「え、えーと、敦君が学校を休んでいたので」

「へー、一回休んだけで、お見舞いに来るなんて、もしかして琴葉ちゃん敦のこと好きだったりするの?」

「え、えーと……………はい」

今の私の顔は真っ赤だと思う。

「そう。…………それなら言ってもいいかな?」

敦君のお母さんは、少しだけ迷ったような視線でこっちを見てきたが、よし!という声と共に

「琴葉君は、敦君のことが好きなのよね」

「はい」

「なら、言っておかないといけないことがあるの」

そう切り出してきた。

私は、すぐにわかったこの後敦君のお母さんがなにを言うのかを。

「実はね、敦はもうじき死んでしまうの」

もし、私が敦君が死ぬことを知っていなかったら、私はたぶんこの事実を受け止めることが出来なかっただろう。

だって、現実に起きているなんて信じたくないから。

でも、私は知っていた。だから、受け止めることができた。

「そうですか…………」

「そう。ごめんね。折角来てもらったのに急にこんなこと言って。でも、言わずにはいられなかったのよ。だって、敦のことが好きだと言ってくれるものだから。だって、そうでしょ、好き人が死んでしまったら悲しい。それを少し前に知らせる。そうすることによって、幾分かは悲しさを軽減できるかなーってね」

人それぞれの考えがあるのだと思う。

好き人が死ぬことを先に知っている方がいいと思う人、先に知らされることを嫌う人。

先に知ることによって、現実は受け止めるかもしれない。でも、でも悲しさは変わんないと思う。知らずに死んでしまったのと。

……だって両方ともとても悲しいことだから。

でも、こうして私を気遣ってくれて言ってくれたことだ。

私が、どうであれここはお礼を言うことが礼儀なのだと思うから私は

「お気遣いありがとうございます」

そう、言った。

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