1日目─再会─
昇降口で巫女と別れた私は、自分のクラスへと入った。
入るともの凄く懐かしい顔が何人もいた。
その中には、私の想い人の彼も。
そして、私が席に着いたと同時にチャイムが鳴った。
そしてまもなくして先生が入ってきた。
「みなさん、おはようございます。えー、今日は特に連絡することはないので、読書してください」
と、少しドスの効いた声で言ってきた。
私は、たまたま自分の机の中に入っていた『君に花束を!』という小説を開いた。
…………小説読むの久しぶりだなー。最近は忙しくて読書に当てる時間なかったから、なんか本が読めて嬉しい。
私が読んでいる『君に花束を!』は、病弱だけど頑張りやさんの女の子とからかうの好きな男の子が織り成す恋愛小説だ。
最終的には、女の子は死んでしまうけど、その彼女の死に際に男の子が渡す花束に込められた意味がよくて感動する物語だ。
*
朝のSTが終わって、10分後には1時間目が始まる。
……はて、1時間目ってなんだっけ?時間割を覚えてない。
「ねえ、
「数Ⅰだよ」
「ありがとう」
……数Ⅰか懐かしい。でも、出来るかな?
授業が始まるチャイムがなった。
でもなかなか先生が入ってこない。
………ああ、そうだったな。数字の佐藤先生は、毎回のように10分間遅れてきて、それで授業スピードがやたらと速かったんだよね。テストとか大変だったけか。
そんなことを考えている内に先生がきっかり授業開始のチャイムが鳴ってから10分後に入ってきた。
そして授業は始まった。
*
4時間目を終えて、今は昼放課だ。
学食の前を通るとたくさんの人がいた。
私はというと、お母さんが朝作ってくれた弁当を持って屋上にきている。
高校時代の私がどこで食べていたかはよく覚えてないけど、なんとなく今日は心地よい風を感じながら弁当を食べたいなーと思ったからここ屋上にきている。
「いただきます」
弁当を開けるとまず目に入ってくるのが色とりどりのおかずたち。
私のお母さんは、弁当に冷凍食品を入れるのを何故か毛嫌いして毎朝自分で全て作っていた。
今こうして弁当の中に入っているコロッケだって朝からわざわざじゃがいもを蓋かして、揚げてくてたものだ。
現役高校生の時は母親が弁当を作ることは、当たり前だって思っていたけど、社会人を経験してからだと、もの凄くお母さんの暖かみを感じることができて、それに毎朝苦労しているんだと思うと感謝しても感謝しきれないなーと思う。
そして、私はコロッケを一口食べた。
「………ん、おいしいな。やっぱり」
冷凍食品とは違う味がして、お母さんの愛情が籠っているそれがダイレクトに感じられるコロッケだった。
「そんなにおいしいの?」
後ろからそんな声が聞こえた。
振り向くとそこには
「……中嶌君?」
「そうだよ」
「なんでいるの?」
「?ここにいる理由って必要かな?もしかして、俺と一緒にいるの嫌だったする?」
「いや、そんなことは…………」
「そっか。それはよかった。それにしても神林さんがこんなところで食べるなんて珍しいね。いつもなら近藤さんとか一緒に食べているのに」
どうやら、私はここで食べていなかったらしい。
道理で美希に「どこ行くの?」と聞かれたわけだ。
「うん、まあ、たまあにはいいかなーってね。こういうところで、風を感じながら食べるのもさ」
なんか、柄じゃないことを言ったような気がする。
「はは、そうか。風を感じながらね。それってとてもいいね」
彼は言い終わると私に向かって笑いかけてきた。
「うん………」
それからの数分間は、二人とも話すことはなく唯心地よい風に身を打たれただけだった。
「……………それで実は、俺弁当忘れたんだよね。だから少しくれない?」
「え、そうなの?うん、別にいいよ」
少しの沈黙の後の最初の会話がこれだと少し拍子抜けだった。
たぶん、当時の私だったらか、間接キス!?それヤバい!とか思って慌てていたんだろうけど、もうさすがにそれくらいで騒ぐわけがない。
「ありがとう」
「えーと、じゃあ私が先に食べるからさ、その後でもいい?」
「いいよ。というかこっちは貰う方なんだからなにも言うつもりはないよ」
「そう。わかった」
それから、私は無言で急いで食べた。
「はい、どうぞ!」
と言って私が弁当を差し出すと彼は急に笑い出した。
「っふ、はははあ!」
「な、なにさ」
「いや、なんかさ。俺のために急いで食べてくれていたでしょ。それが無性に面白くてね」
「わ、私早く食べようと思って頑張ったのに笑うとかひどい!」
「ごめん」
「………………………」
「………………………」
「「っふ、ははぁぁ!」」
私たちは一緒に笑った。
…………なんか久しぶりにだな。こういうの。
最近は笑うこともなくなっていたし。
「なんか、久しぶりに笑った気がするな」
「私も」
「じゃあ、いただくとするよ」
そして、彼は弁当を受け取ってくれた。
彼が最初に口に入れたのは、タコさんウィンナーだった。
「おいしいね。それに手作りって感じがしていいね」
「うん」
「これって、もしかして、神林さんが作ったの?」
「違うよ。私じゃなくてお母さんが作ったの」
少しだけ自分で作くればよかったなーと思った。
「俺さ、思うことあるんだよね」
彼は、急にそんなことを言った。
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