第11話 土地の長老

 五味久杜の命はあと3日となった。


 五味久杜は狂ったように犯人捜しを開始した。目撃者が居ないか商店街を隈無く聞き回っていると、駄菓子屋 “となり” のキヨが五味久杜に話し掛けてきた。


「あんた、何を興奮して聞き回ってんだね」

「昨日の夜、放火されたんです。生憎、小火で済みましたけど目撃者が居ないかと思って聞いて回ってるんです」

「神社の時はおとなしかったけど、自分の家となれば力の入れようが違うもんだね」

「そりゃそうでしょ! 自分の家ですよ!」

「あたしら年寄りにとっては、神社さんは自分の家以上に大切なんだけどね」

「何か変わったこととかありませんでしたか? 何でもいいんです!」

「変わったことって言えば…四、五日前だったかね。東京から来たっていう男の人と、鷹巣から来たっていう女の人に会ったけどね」


 五味は嫌な予感がした。


「どんな感じの人でした?」

「男の人は俳優さんみたいなお洒落な皮ジャン着て、女の人は綺麗な人だったね。ふたりとも垢抜けててね」

「名前は言わなかったですか?」

「聞かなかったからね」

「何しに来たか言ってましたか?」

「須又温泉に来たって…ほら、あんたがやるお弁当に出るとかって言ってたよ」

「お弁当? あああ、イベントね」

「そうそう、その弁当にね。場所を確認に来たって言ってたかな」

「…そうですか」


 東京から来た皮ジャンや鷹巣の特撮女性と聞いて、五味久杜にはピンと来た。しかしその思い浮かんだふたりがタッグを組むとは考えられなかった。もしそうだとしたら…そう考えて悪寒が走った。甲高い高齢女性の質問が耳に刺さった。


「あんたも小火で大変だったね」

「ボクに何の恨みがあるのか知りませんが、卑怯なことを…」


 知らぬ間に五味久杜の周りが七、八人の人集りになっていた。地元の長老が呟いた。


「神主さんも小火被害に遭って、さぞあんたと同じ気持ちだったろうね」


 その言葉に五味久杜は黙った。長老の呟きは続いた。


「五味久杜さんは犯人が分かったらどうしたいんだ?」

「・・・・・」

「わしなら殺してやりたいね。そういう族の性根は一生治らんものだ。殺してあげたほうが本人のためでもあるし、世の中のためでもある。そうは思わないか、五味久杜さん」

「・・・・・」

「そういう族こそ生贄になれば良かったんだよ、なあ五味久杜さん」

「・・・・・」

「ま、犯人探し、頑張ってよ。もしかしたら神社の放火犯と同一犯かもよ」


 長老は五味久杜に微笑んだ。長老が去ると、人集りもすぐに散り、元の人気ひとけのないシャッター通りに戻った。


〈第12話「五味久杜の妻」につづく〉

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