第4話
「失礼しました」
若干キレぎみにぴしゃりと職員室の扉を閉めた。
バレるかバレないかぐらいの勢いでやったので、やった瞬間はひやりとするが、中からミスター怒号の声がしないということは、ちょっと勢い余っちゃったぐらいに思ってくれたのだろう。
「…ったく竹刀持ってきただけで、なぜに俺が呼び出しを食らうはめに」
しかも呼び出すのが放課後という面倒さ加減。もしこれで遅れてはいけない重要な用事でもあったらどうしてくれるつもりだったのだろう。
教職員というのは学生の事情など軽視し、代わりに怒鳴ることでカネを得る連中である。どのみちこうなるのは仕方のないことだろう。
「やっと出てきたか。意外と長かったね」
どうやら麗華が外で待っていたらしい。幸太郎は部活のため、現在いない。
「まったく
「そこは警察次第じゃない?」
まったくそのとおり。
「そんなことより、どうせいまから時間潰すんでしょ?」
「一人でスタバでも行こうかと思ってたんだが」
「じゃあわたしもついてく」
「お前朝は一人でいけって...」
「気が変わったのよ」
女心と秋の空なんてよく言ったものだ。こいつほど心変わりの早い女はそうはいない。
こいつの将来が危ぶまれる。
校門を出て、駅まで続く桜並木の下を二人で歩く。
冬であるため桜がないのが本当に残念だ。
と、思っていたら一枚の花びらが目の前にひらめいた。
はっとして目の前を見ると、一本だけ満開の桜の木がある。さらにその下には白い和服の少女が物憂う顔で空を見上げている。
「どうなってんだこれ…」
季節外れの桜に呆気にとられていて意識を外した瞬間、そばにいたはずの麗華の姿が消える。
「麗華?おいどこいったんだよ」
「あの人なら追い出した」
声のした方向に振り向く。声の主は和服の少女。
静かな声と、物音なくこちらに歩み寄ってくる。
「ここは隠り世。この世のもう一つの世界」
「隠り世?つまり俺だけ隠り世に閉じ込められたってわけか」
「理解が早くて助かる。あなたから剣士の気配がする。きっと強い剣士だと期待する」
少女は突然手のひらから一振りの太刀を取り出した。そしてそれを、真一は知っていた。
毎朝嫌でも目にするその刀の刃紋も、鍔も、その特徴的な白刃も見間違うことはない。
「お前その刀どこで手に入れた」
「これは私のものであり、私自身。私の名は御堂黒鉄鬼鉄。通称白姫。名もなき剣士よ、私の主に相応しいかを試させてもらう」
少女は鞘を刀を抜くと同時に放り捨て、踏み込んだ足をそのままに、真一の眉間目掛けて突きを繰り出した。
「はやっ…」
真一も鍛えた反射神経を使って、髪が数本切れたものの、すんでのところで頭の位置をずらして躱す。
そして後ろに飛び退き距離を取り、竹刀袋に入れていた竹刀を引き抜く。
「させません」
少女は真一に竹刀を持つ暇を与えようとはしない。
引き抜くタイミングを狙って、胸の辺りに刀を振り抜いてきた。
全部抜いてから防いでは時間がない。竹刀の柄の部分と少しを引き抜き、それで受けきる。
しかし所詮竹刀であるため、日本刀の切れ味に勝てるわけもなく、張っていた糸が切れて、竹が四散する。
そして四散した竹刀から出てきたのは、家宝の御堂黒鉄鬼鉄。少女が持つものと同じ、間違いなく御堂家にあるものである。
「なんでこいつがここに⁉︎」
「それは御堂黒鉄鬼鉄。やっと見つけた私の器」
そのとき少女は泣いていた。竹刀から家宝が出てきたことより、少女が泣いていることのほうが真一には驚きだった。
「なんかよくわからんが、得物は同じなら対等に勝負できるってわけだ」
真一は刀を抜き払い、鞘付きのまま腰に納刀する。
御堂一刀流の極意は、居合からの連続攻撃にある。
一撃で倒すのではなく、倒せるまで攻撃するを前提とした剣術として美しいとは呼べないものだ。
「御堂一刀流抜刀術…」
真一は腰の刀に手をかけ、居合の体勢を作る。
すると、白姫も同じ姿勢をとる。
(猿真似か、ふざけてるのか…)
多少気を乱したが、さして影響はない。一呼吸おいて腰から刀を振り抜いた。
「「麒麟!!」」
真一の居合とまったく同タイミングでの抜刀、さらにそのあとの回転して、相手の背後から斬りかかる攻撃までまったく同じ動きをしてみせた。背後に振り向きあった二人は、剣を交えて膠着する。
「なんでお前がこの技を使える!?」
「あなたこそなぜ私と同じ技を?」
その後何度打ち合っても、同じ技を掛け合うだけ。まるで互いの思考を読みあっているかのごとく。
(こいつ強い…もしかしたら俺より)
(この人強い…もしかしたら)
「あなた名前は?」
「御堂真一。御堂鷹船が子孫にして御堂一刀流正当継承者だ」
「見つけた」
白姫がそう呟くと、空間自体が歪に歪み始める。
「おいこれどうなんだ」
「勝負は終わり。あなたをここから追い出す」
「は?ちょっ…まっ…」
視界がぐにゃりと歪んだかと思うと、いつのまにか桜並木の下で寝ていた。というか木にもたれかかっていた。
「起きた?」
真一の頭があるのは、固い地面の上ではなく柔らかい感触の太腿の上。これが世に聞く膝枕というやつだろう。
「どれぐらい寝てた?」
「三十分も寝てないよ。なかなか目を覚まさないし、路上で寝たら警察とか面倒だしね」
どうやら元の世界に戻ってきたらしい。
あれが噂の刀を持った少女の正体。こちらも刀を持っていなければ危なかった。
「あれ?」
真一は手に持っていたはずの刀を持ち上げて、それを仰ぎ見ようとしたところで、手に持つ感触に違和感を感じ、刀のほうを見るとそれは刀ではなく、先ほど四散した竹刀だった。
わけのわからないことだらけで頭がいっぱいになっているが、二つだけはっきりしていることがある。
一つは噂の少女は御堂の家に関係があること、もう一つは、史乃を今すぐ迎えに行かないと間に合わないことだ。
「悪い麗華スタバはなしだ。今度埋め合わせはする」
「ついていくわよ史乃ちゃんのご飯食べたいから」
「図々しいにも程がある!!」
というわけで結局二人でいくことになる。
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