外伝最終話 おっぱい狂いな無敵の友人
「やはり、過去というものは……妾にも話しにくいものなのか?」
あれから数日、例の英雄も戻ってきそうもない。
日常を取り戻した俺が優雅に朝食を楽しんでいると、正面に座って同じように食事をしているタンペットがポツリとそう呟いた。
急にそんなことを言うなんて珍しいな?と思って首を傾げていると、銀色の絹の糸のような美し髪を指先で弄びながら彼女は言葉を選ぶようにゆっくりと更に言葉を続ける。
「妾たちは……その……家族も同然だ。
貴方が嫌ではないのなら、辛いことも、悲しかったことも知っておきたいのだ」
少し伏し目がちで自信なさげにポツポツと話すタンペットの隣に席を移して、俺は彼女の肩にポンと手を置いた。
「もう過ぎたことだ。
話す必要もないと思っていたが、
なんだ。そんなことか……と少し安心して微笑むと、彼女もつられて微笑む。
少しずつ、外とは違う柔らかくて少し幼い一面を少女たちだけではなく俺にも向けることが増えてきたのはなんとなくわかっていた。
あの精神世界で家族のようなものと言ってくれたのも、前の世界でも今の世界でも家族というものに恵まれなかった俺にとっては救いのような一言だった。
「聞かせてくれ。
妾は、そういえば貴方のことを何も知らない。だから……」
俺の隣に椅子を持ってきて座った彼女の髪の毛を撫でる。
そして、手を繋いだまま寄り添うと俺はゆっくりと思い出すようにかつての自分のことを彼女に話した。
俺は、以前の世界では10年足らずで人生の幕を下ろしたこと。
それが、両親の手によるものだったこと。
ろくに世話をされなかった俺は、友人からも両親からされた仕打ちと似たようなことをされていたこと……。
タンペットは、そんな話も茶化すことも、過度に憐憫の情を向けることもなくただ黙って手を取ったまま聞いてくれた。
「この世界に辿り着いてからは……そうだな。
両親は早々に悪魔たちに捧げてしまったし、世界の破壊者である役割を全うするためにずっと悪魔たちを使役してきたからな……。
寂しさは感じたことがなかったし、最初にルリジオとタンペットを食事に誘ったのは単純にヤバいやつのことを知っておきたいっていう興味本位だった。
それなのに……いつの間にかお前たちといると楽しくなってしまった。誰かの叫び声や命乞いを聞くよりも……二人の笑い声を聞くのが……」
長いこと話してしまった気がする。
ふと外を見ると、太陽はいつの間にか空高く登っていた。
タンペットも俺に釣られて外を見ようとした時、コンコンと可愛らしく扉を叩く音がした。
「入って構わないよ」
タンペットにそう言われて入ってきた少女は入ってくるなり、軽食とは別に小さな書簡を彼女に手渡した。
また急な仕事か……と彼女の顔色を伺ってみるが、表情が明るい。どうやらなにか別のことらしい。
俺が少女の持っていた軽食を受け取り、塩漬けの野菜を口に放り込もうとすると、タンペットがニコニコとして俺の方を振り向く。
「聞いてくれアビスモ!どうやら黙認されていた貴方の立場だが正式に妾付きの騎士として王が勲章をくれるそうだ!
それに伴い、近々城で行われる叙任に出席してほしいとのことだ」
はしゃいだ様子でそう言って徐に立ち上がったタンペットは手を数回叩いて少女たちを数人呼び集めた。
「まず布を取り寄せて……アネモネに頼むのが早いか……それに装飾品も必要だ……モハーナに頼むのがいいか……いやヒトの貴族がルリジオの妻に任せたほうが今の流行りも押さえられるか……?」
顎に手を当てて考えをそのまま口にだすように少女たちに指示を出していたタンペットだったが、彼女は指示を途中で取りやめると、上着を少女たちに持ってこさせ、サイドテーブルに置いていた深緑の帽子を被った。
そして、銀色の長く美しい髪を揺らしながら、キラキラした瞳をしたタンペットは、もぐもぐとパンを頬張っている俺を見てニッコリと笑って手を差し伸べてこういった。
「ええい直接ルリジオの館で交渉をしたほうがいい。行くぞ。
もちろん付いて来てくれるのだろう?世界を守護する妾の騎士殿」
「当たり前だ。
俺の主人が俺の晴れ舞台のために動くんだ。どこまででもついていくとも」
手早く準備を済ませた俺達は羽繕いをして中庭で待っていたであろう巨大な鷲の背に乗る。
主人のタンペットの掛け声で羽根を広げて真っ青な空へ飛び上がった鷹は、穏やかな風に乗って双子の岩山を目指してはばたいていく。
※※※
「……待って。中庭になんかやばいのあるなにあれ」
ルリジオの館に降り立とうとした鷹を止めて、旋回させながら遙か上空からでも見えるくらい大きなクレーターのようなものを見つめた。
ルリジオの妻や仕えている妖精たちの何人かが館から中庭に出たのが見える。
俺達は近くの森の下り、念の為鷹を王都へと帰らせると駆け足でルリジオの館へと向かった。
大きくそびえる門のところまで来ると何やら話し声と、低い地鳴りのような唸り声が聞こえる。
門番の妖精が俺達に気が付いて入るように促しているのをみて嫌な予感が脳裏をよぎる。
焦げ臭い匂いと、ちょっとした爆発音、そして急に立ち込めてきた暗雲に無言でタンペットと顔を見合わせていると聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「だって巨乳だぞ!」
ルリジオの声だ……と俺達は思わず顔を見合わせたまま吹き出して、中庭へと同じタイミングで駆け出した。
「本当にあいつがいると飽きないな……」
「全くだ。やっかいな友人を持ったものだな妾たちは」
―Fin―
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