第4話
聖二は四つん這いの女に目を移した。
骨ばった手足は枝のようだ。長い髪に覆われて顔は見えない。ふとした瞬間に髪の隙間から血の糸が垂れ、床に吸い込まれていった。
久志は奇妙な動きを繰り返していた。
胎児のように両手足をついているところは女と一緒だ。しかし、彼はビデオの巻き戻しのように前進と後退を交互に行っていたのだ。
血みどろで奇怪な生き物が田中久志だということを、聖二はどうしても信じられなかった。
「早く、早く逃げないと」
女性の高い声が、聖二の耳に入る。
やけに遠く感じられた。
久志。久志。
確認するように告げるつもりだったが、まるで声になっていない。声は頭の中で反芻され、空しく喉元で砕け散った。
目の前がぼやけ、視界が回り出す。
背中に何かがのしかかってきて、聖二はなすすべもなく倒れ込む。
絶望的な重みが彼を現実に引き戻した。
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