3-11



 急いで歩いているのに、浴衣では歩幅が狭く、なかなか目的地へ着くことが出来なかった。

 佳くんを待たせてしまっている。急がなければ。

 太鼓や笛の音が徐々に大きくなっていく。

 田舎だというのに、こういう時だけは、信じられないほどの大勢の人が集まってくる。

 こんなに凄い数の人間が、普段は一体どこに居るのだろうかと毎回思う。

 約束の場所へ向かう。

 赤い鳥居の右側。

 約束の時間から四十分近く過ぎていた。

「あーもー、スマホ……」

 歩いている途中で、スマートフォンを自分の部屋に忘れてきてしまった事に気が付いた。

「やっぱり戻ればよかったかな……」

 佳くんは待ち合わせ場所に居なかった。

 私が俊太の方へ行ってしまったのだと思い、帰ってしまったのだろうか。

 よく目を凝らして辺りを見回した。

 やっぱり居ない。

 どうしよう。一度家に戻った方が早いかもしれない。

 でも、少しだけこの場を離れているだけだったとしたら……。

「下手に動かない方がいいのかな」

 私は少しだけ待つことにした。

 どうしよう。もしも誤解させてしまっていたら。

 約束の時間に姿を現さず、携帯にも出ないなんて、絶対におかしいと思うだろう。

 そんなふうに思いを巡らせていると、ピカピカっと夜空の一部が光った。これは……。

「佳くん……」

 早く逢いたい。

 早くこの想いを伝えたい。

 彼は今、一体どこに居るのだろう。

 胸がざわつく。

 気持ちが焦る。

 早く。

 早く――。

 ぽつり……。

 冷たいものが頬に当たった。

 雨だ。

 今年も夕立がきてしまったらしい。

 祭りの最中に雨宿りに走る事など、ほぼ毎年の事なので、この町の人間は大して騒がない。

「もう、ほんと、夏は夕立ばっか……」

 雨が降ってきてしまったのならば、もうここには居られない。

 私は周りにならうようにして、屋台の屋根の下へと小走りで向かった。

 雨はあっという間に強くなる。

 ドーンと雷鳴が空気を震わせた。雷はまだ少し遠くで聞こえたけれど、いつ近くに落ちるか分からない状態だろう。

 少し離れた場所が霞んで見えるほどの豪雨になった。数分で通り過ぎていくタイプの夕立かもしれない。

 ぼんやりと夜空を見上げながら溜め息をつく。

 佳くんは今どこにいるの?

 瞬間、バリバリバリッ!! と閃光とともに、大地を割るような凄まじい轟音が落ちた。

 おおっ! と周りの人々が一瞬ざわめく。

 屋台の下では危ないかもしれない。

 夕立が遠ざかったら、また少し待ってみよう。それでも来なかったら、プレハブ小屋へ行ってみようか。

 徒歩では少し時間がかかるけれど、寄ってから帰ろうと思った。

「あれ? 水沢さんじゃないですか」

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