3-10
自分の気持ちは、もう分かっているのだけれど。
でも、それでもすぐに伝えられないのは……。
「長く居すぎた……?」
俊太は昔から当たり前のように近くに居た存在だ。
彼は友達とは違うし、家族とも違う。
そして、恋人とも違う。
それは特別な存在で、私は俊太が居なくなってしまったら寂しいと思うけれど、その気持ちは恋ではない。
それでも大切な存在だから、彼を傷付けたくないと思ってしまうのだ。
好意を寄せてくれているのならば、
「でも、私は、佳くんが……」
顔を思い出すだけで胸が苦しい。
その日に交わした言葉や表情、仕種を何度も思い出す。
それだけで胸が熱くなって、溢れ出ようとする気持ちのやり場に困ってしまう。
俊太は選べと言った。
私は、今までにない程に悩んで悩んで、答えを出した。
◇◆◇
「行ってきます」
玄関を出る。
東の空は、もう瑠璃色になっていた。今は、夕方から夜へと変わっていく時間帯だ。
歩き慣れた道をゆっくりと歩いていく。
答えは出た。
あとは伝えるだけだ。
でも、片方にだけではなく、二人に伝える。
まずは――。
「何だよ、その格好で俺の所に来たのか?」
「俊太にちゃんと伝えたくて」
「そうか」
「……」
「……。お客が居ないうちに言えよ」
俊太は普段と変わらない調子で言った。
「俊太、私は、俊太を大切だと思ってるよ。昔からずっと一緒に居たから、他の同級生とは少し違った特別な存在だと思ってる」
俊太は何も言わずに、私の話を聞いてくれている。
「好きだけど、でも、恋じゃないんだ」
「……」
「でも、居なくなったら寂しいと思うくらいに凄く大切な存在で、傷付けたくなくて、どうしていいか分からないよ」
ほんの少しの沈黙の後、俊太は口を開いた。
「どちらか選べって言って悪かった。でも、お前の気持ちが分かってすっきりした」
俊太を見上げると、彼は微笑んでいた。
「俺は大丈夫だ。お前も、大丈夫だよ」
「私も……?」
俊太の手が、私の髪に触れる。
「寂しいと思うのは、最初のうちだけだ。慣れてしまえば、そういう寂しさは忘れる。人間っていうのは、そういう生き物だろ」
「……うん、でも、……なんか、嫌だね、そういうの」
「……そうだな」
俊太の手が私から離れた。
「もう行けよ。遅れるぞ。浴衣じゃ速く歩けないだろ」
「うん。……じゃあ……」
私はゆっくりと俊太に背中を向けて歩き始めた。
俊太は、もう何も言わなかった。
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