2-19


「エアコンつけるぞ」

「服、やっと乾いたね~。あ~疲れたぁ。もう無理~」

「俺はまだ冷てぇよ。クソ、二人で総攻撃しやがって」

 三人で、またテーブルにもたれ掛かるように座る。

 久し振りに笑った。お腹を抱えるほど笑う事なんて、最近ではなかなか無かったように思う。

「冷凍室にアイスあったよな。食うか」

「賛成! どれにする?」

 私は小さな冷蔵庫へと走り寄り、冷凍室の扉を開けた。

「アイスクリームバーのバニラ、チョコ、ストロベリー。あと、カップのかき氷があるよ」

「カップのかき氷って、最初が硬すぎてやきもきするよな」

 そう言って、俊太はバニラを選んだ。

「じゃあ僕は、そんなかき氷に挑むよ。でもまだこの中暑いし、すぐに溶けてしまうよね」

 佳くんはかき氷を。

「私はストロベリーにしようかな。甘酸っぱくさっぱりと」

 食器棚からスプーンを取り出して佳くんに渡す。

 窓を開け放っていても意味のない部屋の中、私たちはアイスを食べ始めた。

 ちりん、と涼しげな音で風鈴が鳴る。

 私はいつものように、椅子を窓の方へ持っていって座った。

 ずっと聞き続けていて麻痺していた聴覚に、セミの鳴き声が戻ってくる。耳を澄ませば、遠くから空気を震わせてくる電車の音や、飛行機が空を飛んでいく音が聞き取れた。

 会話がなくても気を遣わずにゆったりと過ごせるこの空間が、私はとても好きだ。

 これからもずっと、こんな時間を三人で共有していけたらいいのに。

 年季の入ったエアコンがやっと稼働し始め、室内に涼しい風が広がっていく。

 私はアイスバーをくわえたまま、プレハブ小屋の窓を閉め切った。

 私が椅子へ戻ると、佳くんが唐突に口を開いた。

「ねえ、パントマイムしようよ」

「え?」

 僕のかき氷が溶けるまで、と言って、彼はかき氷の表面を、スプーンでカツカツと叩いた。

 パントマイムとは声を一切出さずに、表情と身振りだけで演技をするものだ。

 さあ、お題は? と言いながら、佳くんが俊太に謝りながらテーブルを少しだけ退かした。

「うーん、じゃあ、〝プレゼントを貰って喜ぶ人〟」

「了解。じゃあ螢ちゃん、僕にプレゼントを下さい」

 そう言って、佳くんは私の動きを待つように立った。

「大きさも重さも、君に任せるよ」

 そう言われてはっとする。

 そうだ、ただ手を伸ばして渡すだけでは駄目なのだ。

 どんな大きさのもので、どのくらいの重さがあるのかを相手に伝えなければ。

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