2-18

「ありがとう」

「ううん、気にしないで。はい」

 佳くんから日傘を受け取ると、指先がほんの少しだけ触れ合った。

 瞬間、頭の中で先日の出来事がフラッシュバックする。

 ばらばらと落ちた飴に向かって伸ばされた手、意外にも大きかった手の感触、そして、真っ赤になった佳くんの顔――。

 ちらりと彼を見ると、当の本人は軽い足取りで入り口の方へ歩いていく。

 気にしているのは私だけなのかも。忘れよう。

 私が頭を軽く左右に振ると、佳くんが何かを持ってこちらへ戻ってきた。

「これ、昨日ホームセンターで買ってきたんだよね」

 佳くんの手の中にはホースが握られていた。

「打ち水しない?」

「こんな真っ昼間に? すぐに乾いて無意味かもよ?」

 佳くんはホースを蛇口に取り付けると、思い切り蛇口をひねった。

 ホースの先から勢いよく水が噴き出す。

「すぐに乾くなら、いいよね♪」

 そう言うと、佳くんはホースの先をせばめて、所構わず振りながら歩き出した。

「わ! 冷たい!」

 私の足元にも水が飛んでくる。

「向こうじゃなかなか出来ないからね! どんどんいくよ~」

 待って、打ち水って違う! そうじゃない!

 佳くんが楽しそうにホースを振り回した。指の加減で自分にも水が掛かり、うわっ! と声があがる。

「うわ! ちょっと、佳くん、やめてよ」

 思いきり水が飛んできて、私の洋服も濡れてしまう。

「おい、お前ら何やってんだ? おおっ!?」

 様子を見に来た俊太に向かって佳くんが水を掛けた。

 これは距離が近かったのでは?

「ホ~シ~ケ~イ~」

 案の定、俊太の服はかなり濡れてしまったようだった。

「貸せコラ」

 リーチの長い俊太の腕が、佳くんのホースを素早く奪う。

「うわ! 逃げろ~」

「覚悟しろよ?」

 俊太がホースを佳くんへ向けた。

 楽しそうに逃げる佳くんの身のこなしは見事だ。機敏にあちこち走り回る。

「クソ、ちょこまか動きやがって!」

 俊太が勢いよくホースを振る。そのとばっちりを受けて、私まで濡れてしまった。

「ちょっと俊太、私も!」

 何だか楽しくなってきて、私も俊太の手に掴みかかった。

「お、お前、やめろ! 手、掴むな!」

「俊太って、分かりやすい時あるよね~」

 佳くんが俊太を見てぼそりと呟いた。

「え? 佳くん何?」

「何でもないよ。さあ螢ちゃん、僕と一緒に俊太を攻撃ね!」

「おい、何でそうなんだよ」

 こうして、私たちの水かけ合戦が幕を開けたのだった。

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