2-9

【いや~、もう、凄かった! ずぶ濡れだよ! お風呂に直行だった】


 気の毒なことに、やはり帰宅途中で豪雨にってしまったらしい。


【稲妻が下から上へ昇るように走るところなんて初めて見たし、雨粒も大きくて重たくて痛かったし、何より周りに何もないから、暴風がまともに僕に当たって自転車が進まなくて、とにかく凄かった‼】


 文面から、少し興奮気味である事が伝わってきた。


【でも無事で良かった! 心配してたんだよ】


【お疲れー】


【無事にかんできた軍人の気持ちが分かった気がする】


 いつものように他愛ない会話が続いていく。

 少し経って、佳くんが話題を変えた。


【そういえばさ、帰ってくる途中でポスターを見かけたんだよね。町の掲示板みたいな所?】


【なんのポスター?】


【高校演劇の夏の研究発表会だった。来週末だったかな。一緒に行かない?】


 演劇――


【行きたい! それ、毎年やってるやつだよ。私の母校の演劇部も参加してるはず。前に行ったことがあるんだけど、結構面白かったよ。あと担任だった先生が顧問をやってるから、久し振りに会いたいかも】


【悪い。来週末は家の手伝いが入ってるから俺はパス。二人で行ってこいよ】


【俊太は駄目なのか~。残念】


【悪いな、ホシケイ】


 俊太がごめんスタンプを送信した。用事があるのならば仕方がない。


【大丈夫。また近いうちに会おう!】


【おう、そうだな】


 俊太のその返信で、今回の会話は終了した。

 演劇観賞なんて久し振りだ。

 私は嬉しさのあまり、無意識に団扇うちわを全力であおいでしまった。そのせいで体温が上昇して暑くなってしまったけれど、今はそんな事はどうでもよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る