2-7

 川辺には無数の蛍が、はかなげな光を放って飛び交っている。まるで夢の中に迷い込んでしまったかのような風景。それはとても、幻想的だった。

「綺麗だよねぇ。素敵……」

 私もゆっくりと視線を彷徨さまよわせた。

「幼い頃に家族と見ているはずなんだけど、こんなに綺麗だったかなぁ。忘れているものだね」

 佳くんが静かに口を開いた。

「俺も、蛍狩りはかなり久し振りだな」

「そうだね。私も久し振り」

「今日の事は、きっとずっと忘れないよ」

「いい思い出になった?」

 私が佳くんに笑いかける。

「そうだね、ありがとう。二人とも」

 佳くんも柔らかな笑顔で私たちに返した。

 ゴロゴロゴロ……

「あ、やっぱり遠雷だ。さっきも聞こえたような気がしたんだよね」

 私が言い出すのと同時に、俊太がにらむように空を見上げた。

「水辺は危ないよね。僕はもう満足したから、急いで帰ろう」

「雷は心配してたんだよね。やっぱり来たかって感じ。でも珍しく今日は遅い方だよね。良かったよ」

「そうだな。行くか」

 私たちは来た道を戻り始めた。

「ちょっと俊太、速いよ!」

 先頭に俊太。その後ろに、私と佳くんが付いて歩いている。俊太は長身だ。少しでも速く歩かれてしまうと、すぐに距離を離されてしまう。

「ああ、悪い……」

 俊太が立ち止まって振り返った。私は石に足を取られながらも、なるべく早足で歩いた。

「螢ちゃん、あんまり急ぐと危ないよ」

「大丈夫。ちょっと慣れてきたから」

 やっとの思いで俊太まで辿たどり着く。

「来た時みたいにゆっくり歩いてよ。俊太の懐中電灯が一番大きいんだから」

 暑い。額から流れ落ちた汗を、手の甲で軽くぬぐった。

「うるせぇ、察しろ」

「え? 何をですか? 俊太さん、何を?」

 私は耳の後ろに手を添えながら笑った。

「クソ、わざとらしく言いやがって」

「何? 教えてくれないの? じゃあ、佳くん行こう」

「おいこら、待て」

「二人って、本当に仲が良いよねぇ」

 そう言うと、佳くんは突然、私と俊太の手を取って歩きだした。

「おい馬鹿! こんな所で危ねぇよ! ていうか、男が男の手を握るな!」

「大丈夫。両手がふさがっている僕が一番危ないから。ほら、しっかり歩いて」

「あのなぁ……」

 私と佳くんは笑いながら、俊太は溜め息をつきながら、やや早足で自転車まで歩いた。

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