「日本刀の使い方!?・②」

 あれからまた、一週間が経った。


「はあ~」


 鞘乃は朝から、玄関ロビーが見える廊下の隅に来ては、隠れるようにして、ため息を吐きながら青年研師の事を見ていた。


『どうして、こんなに胸が苦しくなっちゃうんだろ?そして、なんでこんなに悲しくなっちゃうんだろ?』


 鞘乃は経験した事のない心の変化に、とまどっていた。


『そして、どうしてこんなにつらいのに、ずっと見つめていたくなるんだろ?』


 鞘乃は切ない気持ちを、胸いっぱいに抱えこんでいた。


「はあ~」


 そして口から出るのは、青年研師に向けての、ため息ばかりだった。でも、その隣で同じように、ため息をついている者がいた。


「ハア~」


 それは、ランスだった。


「ハア~」


 その、すぐ側では、従者が心配そうにランスを見つめていた。


「はあ~」


「ハア~」


「はあ~」


「ハア~」


「「えっ!?」」


 何かに気づいた鞘乃とランスは、目を合わせたのだった。


「もしかして?」


「アナータも?」


 そして、一瞬で理解しあった二人。


―――ギュッ!!


 そして、なぜか抱きしめ合う二人!!


「苦しいよね?」


 鞘乃の言葉にウンウンと、うなづくランス。


「デモ、大スキー!デース」


 ランスの、大好き!の言葉に。


――ポロ


―――ポロポロ


 大粒の涙をこぼす鞘乃。その後、チャイムが鳴るまで、二人して抱き締め合い、大粒の涙をこぼしていた。そして、その様子を従者は影から見ていたのだった。


◇◇◇


 昼食が終わったあと、なんかスッキリした感じの鞘乃が教室に居た。そして、そのいつもにまして優しい鞘乃の雰囲気に、刀子は安心して声をかけた。


「よっしゃ、鞘乃!野球やろうぜ!!」


「えっ!なに刀子ちゃん?もおー、いきなりなんだからー!?」


 と、驚く鞘乃。だが、とっても優しい感じがいっぱいだったので、刀子は鞘乃の腕をつかんだ。


「まあまあ、取り合えず中庭に行こうぜ!!」


 そして、嬉しそうに鞘尻を連れ出した。


「おい!待つピョン!!私も行くんだピョン!!」


 そして3人は、刀子を先頭に廊下を小走りで中庭に向かった。


「良しやるぞ!!」


 中庭に立つ刀子は、腰に両手をやり鞘乃と柄恵にエラそうに言った。


「てか、刀子ちゃん!バットとボールは?」


「んなもんねーよ!!」


「じゃあ、どうするピョンよ!?」


「ボールは、これでいいじゃねーか!?」


 そう言って刀子が拾ったのは、石ころだった。


「「えっ!」ピョン!?」


 二人の目が丸くなった。


「石ころをボールにするの?」


「てか、バットはどうするつもりピョン?その辺の木の枝を切って使うピョンか!?」


「んなのいらねーよ!みんなの腰についてるので十分だろ!?」


「「えっ!」ピョン!?」


 二人の目が飛び出していた。


「さあ、来い!鞘乃、投げろ!!」


 刀子はそう言って、鞘乃に石ころを渡した。


「えっ!ホントにやるの?石ころをボールに!?」


 すると刀子は、ニヤッとすると鞘を下に回し。


―――シャキンッ

 

 と、下抜刀をした。


「抜刀だけに、これがホントのバットー!なんてな!?」


「「つまんない!」ピョン!!」


 明るい鞘乃の声に少しホッとする刀子。


「えっ!?」


 でも二人に即、言われたので、少し凹んだ表情をした刀子だった。が、すぐに気を取り戻し刀子は言った。


「さあ!鞘乃、第一球を投げろ!!」


 そう刀子に言われ、とまどう鞘乃。


「えっ!えっ!刀子ちゃん!ホントに刀でやるの!?ボール切れちゃうよ?」


「おい!鞘乃、それボールじゃないピョンよ!石ころピョンよ!てか、どうやって打つピョン?鞘乃の言う通り、刀で打とうとしたら、石ころが2つに斬れるピョンよ!!」


 と、柄恵。


「てか、柄恵!お前ヒマだろ?キャッチャーしろよ!」


「嫌ピョンよ!石ピョンよ?素手だし怪我するピョンよ!!」


「うるせーな!早く投げろ鞘乃!!」


「じゃあ、行くよ柄恵ちゃん!まずはストレート行くよ!!」


 鞘乃は、マジで大きく振りかぶった。


「ええっ!マジピョンかー!?」


 ノリノリの鞘乃に驚く柄恵。しかたなく、キャッチャーの位置に柄恵はつくと、スカートを股にはさみ込みしゃがんだ。


「大丈夫!オレが打ってやる!!」


「じゃあ刀子ちゃん行くよおおお!!」


 改めて投球モーションに入る鞘乃。


「よし!来い鞘乃!!」


 刀子が叫んだ。鞘乃は栗色のパンツが見えそうなぐらいに足を上げ、振りかぶって投げた。 


ピヨーーーン!!


 鞘乃の物凄い意気込みとは反対に、力なく放物線を描く石ころ!いや、ボール。


「チャンスボールだ!どりゃー!!」


 腰を回しながら刀を振る刀子!スカートがふわりと回り、ストッキングの履き口、そしてガーターの紐と共に、黒いパンツがチラリと見えた。


―――スパンッ!!


 刀子が刀を振りぬく!案の定、石ころボールは、二つに切れた!!それをキャッチャーの柄恵が器用に。


――パシッ!


―――パシッ!!


「イタタタッ!やっぱり、痛かったピョン!!(>_<)」


 両手を使って石ころボールをキャッチした。とはいえ慌てて石ころを握ったから、うっかり股が開いて刀子の位置からだと、柄恵の黄色いパンツが、前クロッチラインと共に丸見えだった。


 黄色いニーハイに丸見えパンツ!男子生徒が居なくて、とても残念な光景だった。


「柄恵ちゃん!スゴーイ!!」


 鞘乃は物凄く関心していた。


「クッソ!やっぱ、刃の方で振ると斬れちまうのか!!まあ、ブロックも斬れるらしいからなあ。じゃあ」


 刀子は刀の向きを変えた。


「峰打ちなら打てんだろ!!」


 そして、構えた。


「えっ!ホントにいいの?刀子ちゃん!?」


 鞘乃が心配して言った。


「ああ、いいぞ!第二球を投げろ鞘乃!!」


 そう刀子に言われ、その辺に落ちている、石ころを鞘乃は拾った。


「じゃあ、どうなっても知らないからね!!行くよー!」


 鞘乃が足を上げ投球体勢に入る!今度は、紺のハイソックスと共に、今度は栗色のパンツがスカートから、チラリと見えた!!


ピヨーーーン!!


「またまたチャンスボールだ!どりゃー!!」


カキーーーンッ!!!


 刀子が振った刀の峰に、石ころが当たった。


「当たったピョン!!」


 柄恵が立ち上がった。飛んでいく石ころに、振り向く鞘乃。


「遠くまで飛んでるね!!でも、刀子ちゃん、やばいよ?」


「えっ?」


 鞘乃が言い、刀子が答えた時だった。




ガシャーーン!! 


 窓を割る音が中庭に響いた。


「ヤベッ!!職員室の窓を割っちまった!逃げるぞ!お前ら!!」


 刀子はダッシュした。


「えっ?待ってよ刀子ちゃん!」


「待つだピョン!!」


 刀子を追いかけ、鞘乃と柄恵も、その場からダッシュしたのだった。




「はあ、はあ、はあ……」


 教室に逃げ帰って来た3人は、椅子に体をもたれさせたり、机に突っ伏していた。


「マジで飛ぶとは思わんかった!!」


「もおー!刀子ちゃん、加減してよ!!」


「フルスイングは勘弁だピョン!!」


「てか刀子ちゃん?」


「なんだ鞘乃?」


「その手に持ったままの刀、大丈夫?」


「大丈夫って?刃が欠けてねーとか?」


「そうじゃなくて!鞘にしまえるかどうか!!」


「んっ?」


 鞘乃が言った意味が、今一つ分からない刀子。すると柄恵が言った。


「刀子!納刀してみるピョン!!」


「んっ?こうか?」


 刀子は納刀を始めた。


「うわっ!!まっ、マジか!?」


 納刀しようとした刀は、鞘の途中で止まってしまった。


「かっ、刀が鞘に入らねー!!」


 すると、呆れた鞘乃が刀子に言った。


「そりゃそうだよ!峰打ちでフルスイングするから、曲がってる刀の腰が伸びちゃったんだよ!!しかも刀の先だし!」


「マジか?そんなに刀って弱い物だったのか!?」


「刀子ちゃん仕方ないよ!学校指定のスクール刀だもん!!略してスク刀 《かた》だよ?そんなのにそこまで強度を求めても無理だよ!! 」


 刀子を慰める鞘乃。続いて柄恵も慰めた。


「そうだピョン!頭蓋骨の強度は平面殴打で、オデコ400キロ、こめかみで200だピョン!でもピンポイントなら石の方が遥かに強いピョン!!」


―――ガクッ!


 慰められてはいるが、うなだれる刀子。そして刀子は力なく、つぶやいた。


「これ研師の兄ちゃんで直るかな?」


「いやー!あのお兄さんは研師だピョン!鍛冶屋に頼むだピョンよ!!」


「マジか!?鍛冶屋に知り合いなんて居ねーよ!!」


―――ガクッ!!


 さらに落ち込む刀子だが、その後、監視カメラでバレバレの3人は担任教師から呼び出しをくらい、こっぴどく叱られたのだった。


◇◇◇


 夕暮れの学校。今週も仕事を終え、軽バンに乗った青年研師は、玄関を出る所だった。すると、その車に駆け寄る背の低い女子生徒の姿があった。


キッキィーーー!


 ブレーキを踏んだ青年研師は、その女子生徒を見て面倒臭そうな顔をした。その女子生徒は、この高校の制服ではなく、白の半袖ブラウスにえんじ色のチェックのネクタイ。そしてそのネクタイのチェックと同じチェックがらのミニスカートを履いていた他校の生徒だった。その他校女子はオレンジのショートボブをピンクのシュシュで、右ワンサイドアップにしていた。そして他校女子は青年研師を見ると、こう言った。


広道ひろみち!」


 なので青年研師は言った。


「お前、何しに来た?」


 すると、当然!と言った態度で他校女子は言った。


許嫁いいなづけだから会いに来た!」


「いや、だから親同士が決めた、ただの結婚相手だろ!?」


「でも、だって!広道だって!!」


 夕暮れの校門、オレンジ色に染まる二人の姿がそこにあったのだった。


つづく

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