「日本刀の使い方!?・①」

 朝の事だった。母親が刀子に、お願い事をした。


「ねえ、刀子!お父さんの机を今から、粗大ゴミで出したいのよ。だから学校に行く前に手伝ってちょうだい!!」


 朝食のパンを食べていた刀子はモグモグしながら母親に答えた。


「ひいお!」


―――ゴクンッ


 そして、パンを牛乳で飲み込んだ刀子は2階にある父親の部屋に行った。


「あー!これかあ」


 刀子は父親の机を見て声を出した。父親の使う机は、木で出来た古い机で、しっかりとしている分、とても重かった。


「これ、凄く重いんだよね?昨日、親父に頼めば良かったんじゃねー!?」


 刀子は以前、部屋の模様替えに手伝わされ、机を持った時に二人がかりでやったのを思い出していた。


「そうなのよ!だから呼んだのよ!!」


 母は机に粗大ゴミの有料シールを貼りながら刀子に言った。


「てか!二人で持つのはいいけど、階段が大変だぜ!?」


 刀子は朝から勘弁してくれ!とばかりに、ウヘー!!という顔をした。


「何言ってるのよ!持って運んだら、それこそ大変じゃない!!刀子は刀持ってるんだから!それでサクサクッ!と、切ってよ!!」


「ええっ!?」


 母親の言葉に刀子は目を丸くした。


「あのな!お袋」


「何よ?朝は急がしんだから、早くパッパと切っちゃってよ!!」


「だから~!!」


「じゃあ、なんのために日本刀を腰に差してるのよ!!」


 母親は刀子の腰の刀を指差した。


「あのさあ!日本刀はノコギリじゃねーんだぞ!?」


「ごたくはいいから!さあ!早く早く!!」


 そしてまた急かす母親の声に刀子は叫んだ。


「あのなー!そもそも日本刀は、身を守るために差してんだよー!!」


 でも、母親は気にもせずに刀子に言った。


「それはいいから、早く切って!!」


「はうー」


 押しの強い母親に刀子は諦めて、日本刀を腰から抜いた。


「もう!どうなっても知らんからなあ!!行くぞ!!どりゃーーーーー!!!!







 って、事が今朝はあっただよ!おかげで家を出んのが遅くなって、大変だったんだ。超!ダッシュで学校に来たんだぜ!!」」


 休み時間の教室で、ウヘー!な顔をしながら刀子は、鞘乃や柄恵に話してた。


「だから刀子、今朝は遅刻ギリギリだったピョンか!!」


 と、柄恵。柄恵はツインテールの髪先を、指でクルクルしながら、刀子の話を聞いていた。


「で、刀子?その机は、どうなったピョン!?ほら!研師のお兄さんに、ブロックも斬れる!って言われてたピョン?」


 柄恵は遅刻の事よりも、刀子が机を切ったのか?どうか?が気になるようだ。


「机か?木のしっかりした机だぞ?オレごときに切れる訳ないだろ!!まあ、ブロック斬れる!って言われたから、もしかしたら真っ二つに出来るかな?って、ちょこっとは思って上から振り降ろしたけど、案の定、刃が少し机に切り込んだだけでよおお!そのあとが、クッソ大変だったんだぜえええ!!」


「おいおい刀子!興奮するなピョン!言葉が段々、荒くなってピョンよ!!てか、大変て、どうしたんだピョン!?」


 興奮する刀子に柄恵が、身を乗り出して聞いた。


「で、切り込んだ日本刀が、今度は抜けなくなったんだよ!で、お袋と二人がかりで引っぱって抜いて。やっと抜けたから、それから運ぼうとしたら、机の脚ぐらい切れ!って言われて、で、何とか足だけ切って!あとはこれまた二人がかりで、机を二階から降ろして外に出したんだ!!」


「そりゃ刀子、大変だったピョン!!」


 なんか嬉しそうな柄恵の言葉に、刀子は言った。


「もうさ、日本刀はノコギリじゃないんだよ!!てか、そんな風にスパスパ切れるなら、そんなのはもう達人だろが!!」


 文句を垂れる刀子。それをどこか遠い目で見ている鞘乃に、柄恵は気づき声をかけた。


「てか、鞘乃!聞いてるピョンか?」


 柄恵に続いて、刀子も鞘乃に聞いた。


「そうだぞ!鞘乃、話を聞いてたか?マジで今朝は、ドタバタだったんだぜ!!」


 すると、鞘乃が無表情のまま、刀子にキツク言い放った。


「刀子ちゃん!」


「はい!!」


 思わず、いい返事をする刀子。さらに続けて怖い目で、鞘乃は刀子に言った。


「ツバ飛ばさないで……」


「うわー!鞘乃、ごめんごめんごー!!」


 手を合わせ謝る刀子を見ながら、鞘乃は呆れ顔で、ポケットからハンカチを出すと顔をぬぐった。そして、ぬぐいながら想った。


『なぜだろう?あの人を見た瞬間。急に周りが明るくなって、あの人の以外が見えなくなって、胸がドキドキし始めた』


 ハンカチで顔をぬぐいながら、鞘乃の意識は遠くへ行っていくのだった。


『それからだ。世界がこんなにも明るい事に気づいたのは。何気ない毎日だったのが。学校に行くことが楽しくてたまらなくなった』


 鞘乃の目の前には、あの青年研師の姿が浮かんでいた。


『そうなのだ。あの人がもうすぐ結婚すると聞いた今でも、とにかく学校に行くのが楽しい。玄関に居ないのに。一週間に一回しか来ないのに。始めは、教室の照明が新しいのに替わったのかと思った。妙に明るく感じでいて、なぜか、心も』


 それから、ハンカチを刀子や柄恵に気づかれないよう、ギュッと握りしめ。


「はあ~!!」


 と、鞘乃は大きなため息を吐いた。


――ビクッ!!


 刀子が肩を動かした。


「まっまだ、唾を飛ばした事、怒ってるのか鞘乃?」


 刀子は、恐る恐る鞘乃に聞いた。


「ううん」


 鞘乃は首を横に振り、遠い目をして答えた。その様子を、離れた席の伊達が見ていた。


『もしかして、鞘乃さんて!』


 鞘乃の様子に全く気づかない刀子と柄恵。鞘乃の変化に伊達だけが気づいていたのだった。


◇◇◇


 青年研師が来る日になった。玄関ロビーには朝から、刀を持った女子生徒たちが、行ったり来たりしていた。そこに、銀のランスを持った少女が、お供を連れて通りかかった。すると、青年研師が声をかけた。


「おー!そこの金髪のお譲ちゃん!それはランスか?ちょっと見せてくれよ!!」


 手をあげ、そう言う青年研師。


「そうデース!これはランス、デース!!どぞ見てクダサーイ!!」


 自分の槍に興味を持ってもらったのが嬉しかったのか、ランスは青年研師に銀色のランスを手渡した。


「おっ!結構、重いな!それにスゲーな!まで金属か!?どれ、こんな感じか?」


―――ブンッ!


――クルクルッ!!


 青年研師は、片手で一振りすると今度は両手で、チアガールのバトンのように、ランスをクルクルと回した。その軽やかさにランスは、声を上げる。


「オオー!上手デース!!」


―――クルクルッ!!


 そして、左右に大きく回転をさせたあと。


―――ビュンッ!!!


 青年研師は最後に「突き」をした。


――ドキンッ!


「エッ!?」


 その青年研師の突きの姿に、ランスの胸が高鳴った。


『いつマーデモ!この姿をミテターイ!!』


 青年研師の銀ランスの突きに、なぜだか、ランスは心を奪われてしまったのだ。


「このランスはバランスがいいな!持った時は重かったが、使ってみると、取り回しがしやすかった。これなら多少の接近戦でも、相手の攻撃を柄頭つかがしら、いや槍だから石突いしつきか?で、払う事が出来るな!見せてくれて、ありがとな!!」


 と、青年研師は言うと、ランスに向かって銀色のランスを返しながらニコっと笑った。


「はうっ!///」


 変な音を出して、ランスは返事をしていた。


「あと、腰の剣も見せてくれるか?」


「ハーイ!宜しくてデース!!」


 ランスは慌てて、腰の剣を抜いて手渡した。


「確か西洋の剣はこうやって持つんだよな?これはブロードソード片手幅広剣だっけ?確か、サーベルが全盛の時代に同じ80センチぐらいのサーベルより幅が広い!って意味でブロードだったよな?」


 青年研師は、右手でつかを握ると、左手で剣の先近くの刃を握った。


「ヨク、知ってマースね!持ちカータと意味は、ソーノ通りデース!!」


「このつばもスゲーな!トゲのようにとがって棒のように伸びてて!柄頭つかがしらも尖ってんのな!!まるで、十文字鎌槍のようだな?てか、そういう風にも使うんだよな?」


 最後の方は、ほとんど独り言のように言うと、刃をつかんだ左手だけで剣先を持ち、鍔をツルハシの様に振ったり、右手を左手の近くに添えて、柄頭を槍先の様に突き出した。


「綺麗デース///」


――ポッ


 ランスは真っ赤な顔のまま青年研師に答えた。


「えっ?」


「アワワワ!なんでもナイデース!使い方がジョーズでーす!!」


「鮫?」


 恥ずかしさに下を向くランス。そしてそれから下を向いたまま青年研師に、振り絞るような切実な声で質問した。


「アナータは、いつもココーにいるです、マスカ?」


「んっ?」


 青年研師が首をかしげた。ランスは頭の中で、一生懸命、単語をつなぎ合わせ、少しずつ顔を上げながら言った。


「アナータに会える。ツギ、いつ?」


「ああ、俺の来る日の事か?」


「そうデース!!」


「俺は、腰をやっちまった親父の代わりに来てるんだ。リハビリも含めて、あと三ヶ月は来る予定なんだが……」


「どうシマシターカ?」


「ああ、親父が勝手に結婚を組みやがって、それで揉めててなあ」


「ケコーン?」


 ランスの中で、英語に置き換えられる言葉ケコーン


「ああ、来月に結婚しろ!って言いやがって、お前も所帯を持って、一人前になれ!ってなあ。で、喧嘩になってるんだが、親父が腰をやっちまって、この学校との契約上、ひとまず来ているだけなんだよ。まあ、だから、いつまでこの学校に来るかは分からないだ」


「ケコーン!?」


 やっと置き換わり、その意味に衝撃を受けたランス!!もはや、青年研師の声など聞こえぬランスは、そのまましばらく固まっていた。


「……お嬢様?




 ランスお嬢様!?」


 従者の声で、ハッと現実に戻るランス。


「どうか、なさいましたか?ランスお嬢様!?」


 従者の言葉にランスは、しどろもどろになって答えた。


「カッ、かえり、マースデース!!」


 ランスの言葉に、従者は一瞬、どこに帰るのか?と思ったが、その場を離れたいという意味だと理解し、ランスに従った。


「はい、ランスお嬢様。それでは教室の方へ」


「ええ、そのトーリでーす!」


 そう言うと深刻な顔をして、右手と右足を同時に出しながら、ランスは歩き去って行ったのだった。


つづく


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