「つまりは抜刀の仕方!?・④」

「話は居合師範から聞きました。確かめたい事があります。僕の言うとおりに動いて下さい」


 居合爺ちゃんの話が出て来たので、貧子は謎の老人に応えた。


「はい!」


「では、とにかく相手の腕をつかんで下さい。まあ、出来たら同じ手で!!」


「はい!」


 謎の老人の言葉に、また貧子は応えた。


「それでは、始め!!」


 謎の老人が掛け声をあげた。


「「勝負!!」」


―――シャキンッ!!


――スッ!


―ガシッ!!


 貧子は背中合わせから、相手が横に抜刀し抜きつけた瞬間に、左によけ相手の右腕を自分の右腕でつかんだ。


「止まれ!!」


 凜とした謎の老人の声が、体育館に響いた。


「では、貧子さん。自分の肘を下げながら、相手の肘から肩が上がる様にして下さい」


「はい」


 すると、相手が驚いて声をあげた。


「うわっ!!」


 爪先立ちになる相手。


「今、相手は合気がかかっている状態です。つまり、貧子さんに重心が移っています。あとは、好きな方向に転がしてみなさい」


「はい!」


 貧子は相手を転がした。


―――ドサッ!!


「えっ!?」


 本当に一回して転がる相手。


「さあ!相手の刀を奪って!!」


 謎の老人が叫んだ。貧子は慌てて相手の刀を奪い取ると、倒れて目を回している相手の首に刀を突きつけた。


「参った!!」


 相手が降参した。


「えっ!?」


 貧子は自分がやった事が、信じられない様子だった。


「さてさて、貧子さん。いとも簡単にやってしまうとは畏れ入った!!いや、本当に凄いですね!!」


 謎の老人がニッカニカしながら貧子に言った。


「さあて、貧子さん。どうですか?僕と合気柔術をやってみませんか?」


「えっ!合気?合気道の合気ですか?」


「そーそー、合気道の合気に、柔道の元となった柔術です」


 合気柔術の言葉に五里田が驚きの声を上げた。


「えっ!まさか貴方は、あの伝説の合気師範ですか!?」


 五里田の言葉に、謎の老人はうなずいた。


「でしたが今ではしがない、ただの爺さんです」


 そう合気爺ちゃんに言われて、五里田は思い出した。


「と、そうでした!今はもう師範は辞めておられるのでしたね、お弟子を取らずに合気からも離れているとお聴きしましたが!?」


 五里田が聞くと合気爺ちゃんは説明した。


「ええまあ、居合師範と同じくいい年ですし、それに」


「それに?」


「本当に、合気を必要としている者がこの世に、どれだけいるのか?合気がなくては生活がままならない者。必死の形相!決死の覚悟!!これのある者にこそ、伝授したい。そう、思って弟子は取らないようになったのです。でも高度経済成長を過ぎてからは……」


「はあ、で、この貧子と、どういう関係が?」


 すると、合気爺ちゃんの目が光った。


「居合師範から聞いた所によると、そのお嬢さんの域は、もはや刀を必要としない域だとか?その上、色んな意味で勝たねばならず、それには合気が本当に必要となるのかも知れない。いや、合気こそ必要となるのなら……」


 合気爺ちゃんの優しい目が、貧子に注がれる。


「どうだい?本当に、合気が必要かな?」


 合気爺ちゃんの言葉に、貧子も言葉を慎重に慎重に、つむぎ出すように言った。


「私、刀で切らなくても、勝てる、勝てますか?」


『そ、卒業したいよお』


 その時、五里田が合気爺ちゃんに言った。


「しかし!単位取得として、合わせ立ち合いの取得条件内容では現在、”素手”にての行動不能では単位を出すことが出来ません。なにかしらの武具によるものでなくては」


 申し訳なさそうに言う五里田。それを聞いて――


「ええっ!?」


 と、貧子が切ない声を上げた。


『やっぱりダメなんだ。ごめんね、お母さん』


 貧子の目にもう、こぼれそうなぐらいの涙が溜まっていた。


「なので、空手などもダメになっているのです。そのあと相手の武器を奪っていても……」


 申し訳なさそうに頭を下げて言う五里田。すると、合気爺ちゃんが貧子を安心させるように力強く言った。


「大丈夫、大丈夫……




 そのための僕ですよ!」


 すると、合気爺ちゃんは、「ちょっと失礼!」と言うとその場から離れ、着物のたもとから、携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけだした。そして、少ししてからの事だった。


 大慌てで、バーコード頭の男性校長がやって来て五里田に、こう言った。


「えー、ただいまより!合わせ立ち合いにおける、単位取得に必要な条件内容が、変更になりました!”素手”にての行動不能も可能になりました!!」


「えっ!?」


 五里田の目が、目玉ドコー!?になっていた。


「さあ、これで本当に安心ですね、貧子さん?」


 そこへ、居合爺ちゃんがやって来た!


「いやはや、遅くなってすまんな!おお、来ておったか!!合気のお!!」


「おう!居合師範、僕も来ましたよ。そっちの用意はどうですか?」


「ああ、あっちの方はやっといた!!ところでお前の方はどうなんだ?」


「ああ、僕が師範になるよ!きっと僕の最後の弟子になるだろうね。だから、教育委員会に電話して、単位の内容を変えさせてもらったよ!!前もって、居合師範から聞いた日に、連絡しておいたから、電話したらすぐだったよ」


 そう合気爺ちゃんは言うと、ニヤッ!とした。


「さあて、お譲ちゃん!これからは合気の師範に習って、思う存分!暴れなさい!!そして必ず、抜刀祭ばっとうさいに出なさい!!」


 すると、五里田が驚いて言った!


「なんと!我が校主催の抜刀祭に貧子がですか!?単位取得に必要な条件内容は変わったのでいいのですが、抜刀祭の方の規定はそのままなので、武具による殺傷や行動不能とあり、素手は不可なのですが!?」


 だから、居合爺ちゃんは言った。


「ああ、だから今さっきワシが、ここの理事長や関係学校者と話し合ってのお、抜刀祭の規定を変えてもらったところじゃ!!」


 そう居合爺ちゃんは言うと、合気爺ちゃんを見てニヤッ!とした。その爺ちゃん達の発言や行動に……


『そうだった!この業界に強い影響力を持つ、居合、合気の両師範からの要望なら、いち地方大会の規定や高校の単位の条件内容など変えるのはたやすいだろう。しかし!貧子がそんなに凄かったとは!?』


 と、五里田は思い知った。


「えっ!でも私、抜刀祭なんて、とてもそんな!?」


 勝手に話が進み、驚く貧子。


「いやいやワシは分かっておるよ!さあ、抜刀祭に出るんじゃ!」


「そうそう!僕も分かりましたよ!大丈夫、優勝すれば名工が作った……




 ”日本刀”が一振ひとふり、もらえますよ?」


 居合爺ちゃん、合気爺ちゃんの二人は、当然のごとく貧子に向かって、ウインクをしたのだった。


「えっ!?」


『えっ!もしかして、刀の事がバレてた!?』


 貧子は、こめかみにタラリッ!と、冷や汗を流したのだった。


◇◇◇


 市立セーラー高等学校からの帰り道。二人の師範が子どものように、ワクワクと話しながら白足袋に草履ぞうりで歩いていた。


「100まで生きて良かった!!あの貧子さんを見て、僕は身震いしたよ!神の域だ!神の域の体術!!本人は気づいていないようだけど、もはや刀など必要ない世界だ。これなら僕の学んだ事を伝授できる!!」


「だからワシが紹介したんじゃ!!」


「僕たち師範の仕事は、言うなれば犬を鍛えて虎を目指すが、それはやはり嘘だったね!結局は、犬としての牙を研いだだけだ!そして、いいところおおかみ止まりだ!だが!」


「ああ、虎は鍛えなくとも虎じゃ!自分が虎である事に気づかせれば良い!!自分にもともと、虎の爪と牙が有るのを気づかせればな!!」


「いや、まさかと思っていたけど、まだまだ、世界は広いのだと僕は思い知ったよ!!」


「まあ、このワシでも身震いがしたわ。あれは神にでも鬼にでもなれるとな!!」


「僕は生きてる間に、もの凄いものを見るのかもしれない」


「ああ、それはワシも同じじゃ!!」


 それは師範たちの、残りの命をかけた願いだったのだった。


つづく


☆次回予告



「剣豪の宮本武蔵って、箸でハエを捕まえたピョンよ!!」

「柄恵ちゃん、その話、ホント?」

「じゃあ、鞘乃!やってみようぜ!!」

「私はやめとくよ」

「えー!鞘乃なら出来そうな気がするピョン!!」

「えっ!?やだよー!ハエなんかつかんでも楽しくないよー!!」

「じゃあ、オレやるから!とお!!とお!とお!とお!……ハアー!ぜっんぜんつかめねー!!」

「私にやらせるピョン!おりゃ!おりゃ!おりゃ!おりゃ!おりゃー!……ダメだ、ハエははえーピョン!」

「もう、二人ともやめようよ!」

「あっ!7組の貧子だピョン!!ねえねえ、ちょっとこの箸を使って、ハエを捕まえて欲しいピョン!!」

ブーン

「わっ!オレのお弁当に!?」

パシッ!!

「すごーい!貧子ちゃん天才!?」

「つい!つかまえちゃったけど、すごくないよ!たまたまだよ!!」

「宮本武蔵はホントだったピョン!」

「てか、柄恵さあ?」

「何だピョン、刀子?」

「ハエをつかんだ箸で、お前はお弁当食べるのか?」

「あーーーーっ!!!ガクッ、ううう……次回~!


 鞘乃の恋?女槍騎士おんなやりきし来日!?


 だピョン~。シクシク~」

「あっ、洗えば大丈夫だよ!柄恵ちゃん!!


 ……たぶん」



――また読んでね!

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