「鞘乃の恋?女槍騎士来日!?・①」

「「勝負!!」」


―――シャキン!


――ザンッ!!


 背中を互いに合わせてからの、合わせ立ち合いでは、いつも抜刀が遅れ、負けてばかりの刀子だったが、下抜刀したばっとうを覚えてからの刀子は、まったくの別人だった。


「やった!勝ったぜ!!」


 力強くガッツポーズをする刀子。素早い抜刀が出来るようになった刀子は、眼を見張る早さで上達していった。


「さあ!次ぎの相手は誰だ!?」


 どんどん試したい刀子!そして、その度に自信をみなぎらせていく刀子だった。


「居合師範!これは凄いですね!!」


 五里田が驚いていた。


「ああ、特に下からの抜刀は、幕末に恐れられていた示現流じげんりゅうから派生した薬丸示現流やくまるじげんりゅう初太刀しょだちで、刀持かたなもちは下からの攻撃は慣れていない者が多いから、抜き付けようと横抜刀をすれば、首を斬られるか、または下から伸びた剣先で貫かれるじゃろう」


「まさに抜き打ちですね!」


「ああ!そして、その光景を見た者が、つい守りに入りながらの、浅い切り付けになってしまうと、脇からの逆袈裟を食らったり、そうでなくても小手が飛ぶ。とてもやっかいな太刀筋じゃよ!!そもそも示現流は、二太刀にのたちいらず、初太刀で相手の頭をカチ割りに行く示現流は、防御など考えておらず、全身全霊を持って、上段から打ち斬る剣術なのじゃ。ただでさえ鬼のような気迫が必要となり、会得には並大抵な努力では足りないのじゃが、その精神は、あのお譲ちゃんの気風にぴったりじゃったわい」


「まさに鬼に金棒ですね。あの新撰組の近藤勇が、「薩摩さつまの初太刀はけろ!」と言っていた意味が良く分かりますよ。相手の刀さえも、ひん曲げ、折り斬ってしまうのですから」


 五里田はたじろいで言った。


「次!誰か次ぎは居ないか!?」


 刀子は、面白いように次々と相手を斬り倒していく。


「鞘乃!相手をしてくれ!!」


「ちょっと、勘弁かな?」


「じゃあ、柄恵!!」


「絶対にイヤだピョン!!」


 一撃で斬り倒される、その様子を見ている周りの女子からは、名乗り出る者は居なかった。


「てか!日本刀ってマジでスゲーよな!何人斬っても斬れ味が落ちねーよ!!まあ、牛刀とか考えれば、そりゃそうか!!」


 と、刀子は日本刀を自分の顔に近づけると、舐めるような勢いで言った。


 その時だった。


「いいですよ!ボクがやりましょう」


 すると、1、2組最強の伊達が名乗りを上げた。


「「勝負!!」」


 背中を合わせてからの、立ち合いが始まった。


「チェストーーー!!」


 下抜刀からの刀子の初太刀。


―――シャーッ!!


 それを伊達は、素早い上抜刀の抜き付けで上から押さえるように、刀子の切っ先を右のしのぎで滑らせ。


――ガチンッ!


 そして、つばの下で受け止めた。


 刀子の刀の切っ先が少し欠けた。ならばと、刀子はすぐさま、刀を左に回し上段に構えると、振り降ろしを連打した。


「オリャアアアア!!!」


 その振り降ろしの連打を、刀身をバネの様にして左右に弾き、すんでのところでしのぐ伊達。


「伊達が押されてるピョン!!」


 伊達への猛攻をかける刀子!もともと刀子が、運動神経は良い方なのと、持ち前の気迫や根性が作用し、花開いたという感じだった。


――シャーッ!


―シャーッ!!


 鎬同士!金属同士がこすれ合う音。すると五里田が叫んだ。


「とっ、刀子が、あの伊達を!?おい!みんな!手を止め二人の戦いを見学しろ!!これは滅多に見られない戦いになるぞ!!」


 良い戦いを見る事もまた、良い勉強となるからだ。


「キエー!!!」


 伊達が踏み込んで斬ると、刀子は両手で握った柄頭つかがしらを上げ、刀身を肩に付け、切りかかる伊達のやいばを、刀身の背からしのぎを使い、滑らせ防御した。


「オリャ!!!」


 そしてすかさず刀子が、逆に伊達に斬りかかるが、伊達も同じく 柄頭を上げ、刀身を肩に付け、刀身の背から鎬を使い、刀子の刀を滑らし流した。そして、互いに切っ先を相手の中心に向けたまま、距離を取る刀子と伊達。


「凄いピョン!!」


 と、柄恵が感嘆の声を、漏らすのも束の間!


「キエー!!!」


「オリャ!!!」


「キエー!!!」


「オリャ!!!」


 先程の滑らし流し打つ!!を、二人は高速で繰り返した。


「キエー!!!」


「オリャ!!!」


「キエー!!!」


「オリャ!!!」


 雄叫びを上げ、流し打ちを繰り返す二人。かと思うと一転!


―――ギシッ!


――ギシギシッ!!


 互いにさらに一歩 、踏み込んでの鍔競つばぜり合い!!ギシギシと目釘めくぎが折れんばかりの柄鳴つかなきが、シーンとした体育館に響いた。


「初太刀で切っ先をいてからは、無意識なのじゃろうが、刃欠けをさせぬよう刃と刃を打ちつけず、刀身の背や鎬を使い相手の刀を受けておる!!いやはや、下抜刀を教えただけじゃったが、これは凄い剣士を発掘したかもしれんのお!!」


 居合爺ちゃんは嬉しそうに言った。まさに文字通り刀子と伊達は、互いにしのぎを削り、鍔競り合いを行っていたのだった。


◇◇◇


「刀子ちゃん!凄いね!五里田先生が、お前も抜刀祭に出ろ!!って言ってたね」


 鞘乃は刀子に言った。鞘乃たちは体育館を出て、自分たちの教室に向かっている所だった。


「ああ、スゲー!嬉しかったぜ!!てか、鞘乃はどすんだよ?」


「どうするって?」


「抜刀祭だよ!出るんだろ?それなりに上手いんだから!!」


「私はいいよ!!痛いのイヤだし」


「私は出るピョンよ!!」


「えっ!柄恵、マジか?」


「そうピョンよ!!いけないピョンか?」


「いや、お前、鞘乃より弱いじゃん?」


 すると、柄恵が体を震わせ。


「弱くちゃ!出ちゃいけないピョンかっーーー!?」


 と、いきなりキレた!!


「いや、抜刀祭は他校との、ただの高校交流の祭だし、出たい奴が出られるからなあ。アハハハ」


 刀子は自分から言ったつもりだったが、柄恵の強い意思を感じ、なんだか、言ったのが悪い気になり、笑って誤魔化ごまかした。


「ボクも出るよ!」


 刀子が振り返ると伊達が居た。場の空気を読んだのか、刀子は伊達が言ってくれた事で気まずさが薄れた。


「おお!伊達ならそうだよな!!」


 刀子は、今さっきまで一応、命をかけて戦った者同士な雰囲気を、かもし出して言った。


「でも結局、伊達は倒せなかったなあ!!」


 刀子が残念そうに言った。


「仕方がないよ刀子ちゃん!先生もギリギリまで待ってたけど、休み時間のチャイムが鳴っちゃたんだから!!引き分けだって凄いよ!!!」


 と、鞘乃。


「そうそう、刀子さんの刀!先が少し欠けちゃったけど大丈夫?」


 すると伊達が心配して言った。


「ああ!帰ったら研ぐぜ!!」


 刀子が言うと、鞘乃が慌てて言った。


「えっ!ええっ!?研ぐの?研げるの?無精者ぶしょうものの刀子ちゃんが!?」


 鞘乃は、目が飛び出るぐらいに驚いたのだった。


つづく



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