「つまりは抜刀の仕方!?・③」
「あー!もう終わっちまった」
「刀子ちゃん!下抜刀覚えてから、楽しそうだね!!」
体育館にて、刀子たち授業が終わった。その後、今回は怪我人もいないので、体育館内の洗浄、乾燥、消毒は行われず、続けて次のクラスの授業が行われた。
「では、抜刀!」
―――シャキン!
五里田の声に抜刀する女子生徒たち。その様子を居合爺ちゃんは温かく見守っていた。その中、ひときわ素早く抜刀、そして納刀をする者がいた。
それは貧子だった。
――シュン!カチンッ
抜刀からの回転納刀。それも縦でも横でも軽々とやってのけていた。
「抜き付け!」
―――シュン!カチンッ
「抜き打ち!」
――シュン!カチンッ
それぞれの刀の動きもしつつの超高速抜刀納刀だった。とにかく貧子の抜刀は市立セーラー高等学校最速だった。
「貧子さん凄ーい!」
「目のにも止まらない早さね!!」
皆から言われると、自分に注目が集まる事で偽刀とバレるんじゃないかと、内心ドキドキの貧子。
『ああもう!竹光で軽いんだから、早くて当たり前だよお!!もう、こっち見ないでー!!』
ベリーショートの美人顔が、内心のドキドキと相まって、ほのかな色気となって、さらに人目を集める事になってしまった。が、貧子に人目が集まる理由はそれだけではなかった!
「貧子さん、よけるの凄ーい!」
「目のにも止まらない早さね!!」
『これ以上、セーラー服がボロボロになったら、着るセーラー服がなくなっちゃうよお!!』
合わせ立ち合いでは、以前スカートを切られ、セーラー服に大穴を開けられてからの貧子は、もはや
そして時折、相手を浅く切る貧子。それを見てクラスメイトたちが話をする。
「あれだけよけられるのに、なぜ深く斬らないんだろ?」
「貧子さんが言ってたんだけど、相手の間合いに入るのが怖いのと、相手をズバッて斬るのを、凄くためらっちゃうんだって!!」
「そうなんだ!そう言うの聞くとなんか安心するね!おんなじだね!!」
「そうね!貧子さんが身近に感じるね!!」
そんな声が聞こえて来るが貧子はこう思っていた。
『みんな、嘘を言っててごめんね。この刀、本物じゃないから、深く切れないんだよお!だから、
で、いつものごとく五里田に注意されてしまった。
「おい!貧子。抜刀したら真っ直ぐに構えろ!すぐに納刀するな!何度言ったら分かるんだ!!」
「すみません先生。つい」
貧子は申し訳なさそうに五里田に頭を下げた。
『だって、ずっと構えてたら竹光だってバレちゃうもん!!』
貧子の攻撃はパターン化していた。まずは相手の刀をよけつつ、相手の目を切って潰した。だか、しょせんは五ミリの刃!片目ずつしか潰せなかったが。その後、目を潰した相手の頸動脈や手首の動脈に向かって切って行くが、やはり五ミリの刃ではそれなりの出血をさせられるものの苦戦した。
なぜなら、相手が「参った!」と言ってくれれば良いが、降参しない場合は、ほぼ制限時間オーバーになり、引き分けになってしまっていた。
それは、つまり「現在の」単位取得の条件としては、時間内の行動不能が条件で、それもこの一年間で対戦相手の「一割」を行動不能にしなければならなかった。なので、このままでは貧子は規定に満たない状況になってしまう事を意味していたのだ。
「おい!貧子。なんでちゃんと斬らないんだ?」
「すっ、すみません」
「すみませんじゃないだろ!?相手の刀をよけられるし、致命傷を与えられる間合いに入れているのに!なんで、すぐに逃げながらの切り付けだけなんだ!?」
『だって、斬れるわけないもん!だって、カッターの刃だもん!だって、深く切れても5ミリぐらいだもん!!』
「すみません!先生、ホントにすみません。」
とにかく謝る貧子。
「いいか貧子!一割に満たなければ、単位は出せないし、そのままでは卒業が出来なくなるぞ!!」
「えーっ!?」
『お母さん!どうしよう!どうしよう!?ああ、もう涙が出ちゃうかも』
すると、居合爺ちゃんが五里田に言った。
「まあまあ、いいじゃありませんか!この、お譲ちゃんには才能があるんじゃから」
「えっ!居合師範、そうなんですか?」
五里田はは居合爺ちゃんに聞いた。
「
「鞘引き?それはいったいなんでしょうか?指導要領にはありませんが?」
「そうか!では、お嬢ちゃんが自分で見つけたのじゃな!!」
「所で、鞘引きとはなんでしょうか?」
「あの、お嬢ちゃんの鞘の扱いを良く見るのじゃ!鞘をまず前に出して、それから引いて抜刀しておるじゃろ!!」
「えっ!?」
五里田は改めて、貧子の抜刀を注意深く観察した。
「ほら!鞘を前に出しておる分、刀を抜く為に動かす右手の距離が短くなるのじゃ!単純な話、鞘の方で半分抜けば、全部を右手だけで抜くよりも、半分の時間で抜刀が出来るからのお!!」
「なんと!それが貧子の素早い抜刀の秘密でしたか!!」
「そして、実戦を体現しておるんじゃ!だってこの、お譲ちゃんは誰よりも早く抜き付ける事が出来、そして袈裟切りでも、
居合爺ちゃんは、貧子に近づいた。
「お譲ちゃん、ワシに手を見せい」
居合爺ちゃんに言われ、合わせ立ち合い中であったが、貧子は手を見せた。
「はい」
居合爺ちゃん見せた貧子の手は、何度も何度も皮がむけたあとがあり、さらには、厚く固かくなっていた。
「そうかそうか。なあ五里田先生?」
独りうなずき、五里田を見る居合爺ちゃん。
『もしかして、今の貧子に必要なのは自信をつけさせる事なのか?』
貧子への指導を、勘違いから見直す五里田。そして居合爺ちゃんの助言を得て、五里田は貧子にこう言った。
「貧子!すまなかった。以後、自由にやってくれ。
その言葉に目をウルウルさせたまま、心の中で貧子は叫んだ。
『良かったよおおおお!これで、バレずにすむよおおおおお!!!』
貧子は潤んだ目頭をぬぐったのだった。
その後の合わせ立ち合いでも、素早くよけ、致命傷にならぬが浅く、そして
「おー!なんと昔の武士の戦いの再現のようじゃのお」
居合爺ちゃんは五里田に言った。
「そっ、そうなのですか?この戦い方が!?」
「誰だって死にたくはないからの!歴史資料をみると、実際の武士の戦いで、互いに遠い間合いをとったまま、多少の切り付けをしつつ!というのがあって、見ていた農民だか町民に、早くやれ!なんて
「そんな記録が!でも、丸一日では、合わせ立ち合いの時間制限から、引き分けにはなるも、貧子には勝ち目が……」
「まあ、まさにそんな戦いを見ている気がしたが」
―――サッ
――スッ
相手の刀を、すんでのところでかわす貧子。
「じゃが、お譲ちゃんがやっているのは、記録にあるような腰の引けた戦いではないようじゃな。怖くて逃げているんじゃない、本当は相手を倒したい!でも、何か色々なものが邪魔をしている。ワシにはそう見えるのじゃが……」
居合爺ちゃんは改めて貧子を見た。継ぎ接ぎだらけのセーラー服を着て、最速の抜刀で浅く切る貧子。相手の刀を服スレスレでよける貧子。
「相手の動きが前もって、見えておるのお……」
ボソリと居合爺ちゃんはつぶやいた。
「えっ!そうなんですか?」
五里田が聞いた。
「見えておる。いや、感じておるの方が、正しいか!相手の体が動く前、相手の意識が体に命令を出す、”直前”を感じ取っておるの!!」
「ええ!そんな事が出来るのですか!?」
「出来てなければ、あんな動きは出来ん!!」
「はあ」
「だとしたら、もはや刀が要らなくなるという域なのかもしれん。そうだとしたら、あの短髪のお嬢ちゃんに今、必要なのは……」
貧子を見て居合爺ちゃんは、何かを思いついたようだった。
◇◇◇
あれから一週間が経った。1年7組の合わせ立ち合いの授業中に、白の道着に白の袴。足元は白い
「
だが声は居合爺ちゃんと同じく、ハッキリとしていて力強かった。
「えーと、
五里田が見知らぬ謎の老人に聞いた。
「僕は居合師範の
と、謎の老人は言った。
「あ、はい!ええと、あそこで立ち合っているのがそうです。貧子といいます」
五里田は貧子を指差した。
「ああ、あのお嬢さんですか」
それからしばらく、謎の老人は貧子の戦いの姿を観察した。そして、声をかけた。
「ええと、貧子さん。僕の言うとおりに動いて下さい」
「えっ?」
「話は居合師範から聞きました。確かめたい事があります。僕の言うとおりに動いて下さい」
と、謎の老人は、貧子に言ったのだった。
つづく
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