「オシャレは帯から!?・②」

「いや、ふとオシャレだな!って思って」


 普段、オシャレなどに無頓着むとんちゃくな刀子が、何を思ったのか?珍しくそんな発言をした。


「そう?美人で可愛い刀子ちゃんに言われると、すごく嬉しいよ!!」


 誉められて嬉しい鞘乃は、改めて自分の帯を見た。すると、刀子は自分の帯を触って言った。


「オレのなんて、ただの帯だからな」


「でも、スカートと同じ紺だし、幅広の角帯かくおびだから、とっても!カッコいいよ!!」


「そっ、そっかあ///!?」


 鞘乃に言われて、刀子も満更まんざらでもない表情になった。すると刀子は、自分がオシャレに珍しく目が行った理由に気が付いた。


『あっ、そうか!昨日、先輩たちにオレが認められたから刀に対して、心に少し余裕が生まれたんだな!だから、周りの事が見えたんだ!!』


 刀子はそう思うと、嬉しくなった。そして、改めて鞘乃に帯の事をきいたのだった。


「でも、鞘乃の帯は茶色で結び目も細くて、前でリボン結びに出来て可愛いじゃん!!なんていう帯なんだ!?」


 鞘乃の刀を差し込んだ帯は、いわゆる刀を腰に差す帯とは違っていた。


「えっとね、これはサッシュベルトっていうんだよ」


「さっしゅ?ベルト?えっ!帯じゃないのか!?」


「そうだよ!」


 どうやら、ただの帯じゃないと分かった刀子は、ふと気になった。


「えっ!てか、そもそも帯じゃなくてもいいのか!?校則違反にならないのか!?」


 と、刀子が言うと、鞘乃は可哀想な人を見るような目で刀子を見た。


「そうだよ刀子ちゃん、知らなかったの!?てか、もーっと周りをよく見ようよ!みーんな色ーんな、ベルトしてるよ!!」


「えっ!そうなのか?」


 刀子は周りの女子の帯を、改めてジックリと見ていった。


「ほっ、ホントだ!知らんかった!!オレと同じ帯以外にも、鞘乃のみたいな帯や、なんかごっつい革ベルトに、ぶら下げて差している奴もいるぞ!!あのベルトはなんなんだ!?」

 

 刀子は、指を指して言った。


「あれは、サーベルとか軍刀を帯刀する時の革で出来たベルトだよ」


「サーベル?軍刀?昔の自衛隊がしていた奴か?」


「昔の自衛隊って!それを言うなら旧日本軍だよ。まあ、正式には大日本帝国軍だけど」


「で、その時のベルトってことか?骨董品だな!!」


「骨董品じゃないよ!復刻だよ!!帯刀令に合わせてまた作った新品なんだって!!」


「そうなのか!鞘乃は物知りだな」


「全部、入学してからの学校説明で聞いた話だよ」


「てか、帯刀するには何でもいいのか!?」


「そうだよ。校則では帯刀出来るのなら何でもOK!って書いてあるよ」


 鞘乃は刀子に、学生手帳の中身を見せた。


「あっ!ホントだ」


 生徒手帳に書かれたものを見て驚く刀子。


「普通のオシャレなベルトに、下緒さげおで結ぶのも可愛いよね!!」


 鞘乃は、どうしたらもっとオシャレになるのかを思い描いていた。


「でも、差す角度も重要だよね?普段は水平に差すと、ぶつけたり、ぶつかったりするから、なるべく立てて差せて、でも抜刀をするなら、刀は水平にして、さらには刀のつかが、やや出せると抜きやすいからいいよね?というか、差しやすく丈夫なベルトがいいのかな?ああ、そっかあ!そうすると普通の帯が一番良くなっちゃうんだよね!!」


 そんなこんなを鞘乃が考えているっと、すると刀子は、何かを思いついたらしく。


「なら!」


 刀子は、刀についいる紐をほどき始めた。


「刀子ちゃん?急に鞘に結んである下緒をほどいてどうしたの!?」


「こうして、こうやって、背中にやってと!」


 刀子は用意が出来ると、鞘乃に見せ付けるように、両手を腰にやりながら胸を張った。


「ジャーーーーン!!」


 その姿を見て、鞘乃は困った顔をした。


「下緒で、背中につけるのはいいアイデアだと思うけど、多分、刀子ちゃんには抜けないよ」


「えっ!」


「まあ、やってごらんよ」


 刀子は右にかけた背中の刀を抜こうとした。


「あっあれっ?ぬっ、抜けない!?なんで!?」


 抜こうとした刀が、途中で抜けずに止まってしまった。


「だから、忍者ちゃんの時に話したでしょ?覚えてないの!?」


「なんか話したっけ?」


「もうー!背中からの抜刀は、普通の長さの刀では難しいんだって!!」


「えっ!そうなのか!?」


 ガーンな表情になる刀子。


「そうだよ!右からなんて、それこそ一番抜きにくいんだから、忍者ちゃんは短かい刀を使ってるって言ってたじゃん!!」


「そだっけ?」


「そうだよ!だから、野太刀のだちって呼ばれている長い刀を背負う場合は、左に背負うんだよ。それだって、練習しなきゃ簡単には抜けないよー!」


「えー!そうなのか!?」


 刀子は左に背負ってみたが、鞘乃の言う通り刀は上手く抜けず、黙って背中の刀を降ろした。


「それに、背中からの背面抜刀はいめんばっとうだと、抜刀での攻撃の幅が狭くなるんだよ」


「ええー!!どういう事だ鞘乃!?」


「考えれば分かるでしょ?」


 ジト目になる鞘乃。


「何度も、すまん鞘乃!オレ、本当にバカなんだよ( ;∀;)」


 ジト目の鞘乃に半泣きになる刀子。


「もう!背中だと上からしか攻撃出来ないでしょ?普通に、左の腰に刃を上にして差しておけば鞘を回す事で、上、横、下と攻撃の幅が増えるでしょ?まあ、まだ授業では下抜刀はやってないけど!」


「あー!なるほど!!」


 ホントかどうか分からないが、刀子は手を打って納得していた。


「はあ~」


 そんな刀子に嫌気が差した鞘乃は、席を立ったのだった。

 

◇◇◇


 同じく休み時間、同じ教室。


「この、セラ高のセーラーって、私が中学の時のセーラーと違うんだピョンよ!!」


「そうなのですか!?ボクは中学ではブレザーでしたから、どこがどう違うのか分かりませんが?」


「へえ、ブレザーなのかピョン!まあ、とにかく!ここのセーラーは他とは違うんだピョンよ!!」 


「???」


 柄恵と可憐少女伊達が、制服を話題に話をしていた。いや、一方的に柄恵が話をしているだけだが。


「そもそも今、セーラー服の学校は少ないんだピョン!その中でも、ここのセーラー服なんて正統派なんだピョンよ!!」


「せっ、正統派ですか!?」


 伊達は眉毛をやや八の字にしながら柄恵にたずねた。


「白の半袖セーラーなんて、デフォだ!デフォだピョン!!」


「でも、この高校、冬場は紺の長袖ですよ?」


「それがまたいいんだピョンよおお!!」


 伊達や柄恵の市立セーラー高等学校は、夏と冬で制服の上の色、そして生地の厚さが変わるのだ。ちなみに中間服もあり、夏服と同じ薄さの白の薄手の長袖、袖先はえりと同じ紺に三本線だ。


「それにバータイ!だピョン」


 市立セーラー高等学校は、三角スカーフでなく、はじめから帯状になっているバータイを採用していた。


「でも、ここのバータイは面倒ではありませんか?自分で結ぶのですから。ボクは苦手です」


「いやいや正統派だピョンよ!自分で結ぶなんて!!まさに正統派のバータイだピョン!!!」


 柄恵は、とにかく正統派を強調して言った。


「そうですか、でも、手結びで左右を整えて可愛く形を整えるのは、毎日大変ではありませんか?ボクはブレザーにネクタイでしたので、まだネクタイの方が楽でした。緩めておけば、また次の日に締めて使えましたから。まあ、ですから私はバータイを、ネクタイ結びにしているのですが」


「まあ、私の中学のセーラーはスカーフで、でも!スカーフ留めがあるから、入れて引っ張ればオーケーだったピョンが……”結ぶ!!”それこそがいいんだピョンよ!結ぶのこそ正統派だピョン!それにうちの高校は、結び方が自由なんだピョンよ!!そして、リボン結びこそ正統派だピョン!!!」


「まあ確かに、普通の結び以外にも、リボン結びにネクタイ結びとかしてもいいのですけど」


 校則が緩い事については賛成する伊達。


「セーラーの襟の白三本も可愛いピョン!」


「まあ、それはボクも思いますね」


「それにスカート!ピョン」


「えっ!スカートですか?」


「中学の時のスカートのヒダは覚えているピョンか?」


「えっと、ヒダってスカートのですか?」


 これまた細かい事を言うなあ!と、伊達は思いつつ言ったが、すると柄恵は嬉しそうに、うなずいたて応えた。


「そうだピョン!」


 スカートのヒダと言われて、色んな種類を段々と思い出す伊達。


「たしか……くるまじゃなくて、はこだか?前箱まえはこと言っていたと思いますが?」


 伊達に答えてもらうと、とにかく嬉しそうな柄恵は、さらに今のスカート事情を勝手に力説した。


「そうなんだピョン!今は箱ヒダか前箱ヒダが多いんだピョン!!」


「えっ!?」


 明らかに、何言ってんだコイツ!?という顔に、一瞬なった伊達。でも柄恵はそんな伊達の表情に気づかず、続けて力説した。


「ここのセーラー服のスカートは、まさに正統派!の、車ヒダなんだピョンよ!!」


「・・・」


 力説の柄恵に目が点になる伊達。可憐少女の右目の眼帯が、心なしかズレた気がしたのだった。


つづく

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