「槍なのに帯刀って!?・②」

「じゃあ、結局! 銃が持てねーーーじゃんっ!?」


 と、政経教師に吠える刀子!!だが、政経教師は涼しい顔で淡々と説明した。 


「なのですが、猶予期間というものがあり、高校に在籍している間は、帯刀法の適応となり、18歳以降も帯刀が出来、銃の保有が行えます」


「それを早く言えよ!!じゃあ、オレは8月から持てるんだな!?」


 自分の理解力を棚に上げ!だが、生徒の理解を待つタイプの政経教師は気にせず話を続けた。


「そうです。最寄の銃砲店に行き、帯刀免許証を見せれば購入が可能となります。まあ、余談になるのですが、本来の銃の保有については銃刀法により20才まで待たねばならず、そして20才以降、銃所持の試験を受けることになります」


「さっき!お前、18歳からって言ったじゃねーか!?」


 またもや吠える刀子!先生に向かって、お前だ!?


「本来です。スポーツ団体などの推薦を受けた場合は、18歳から可能なのです。この推薦の部分を帯刀法が補う形となるので、なので先ほど、兼ね合いと言ったのです」


「そういう事か!」


「さらに言うなら現行の銃刀法では機関銃やバズーカなどの個人保有は許可になっていません。なので、バズーカなど登録外の銃器の保有についての根拠こんきょは、実は銃刀法ではなく帯刀法によるものなのです」


「なんかヤヤコシイなー!?」


 刀子はクタクタと疲れたように自分の席に座った。


「えー、では話を続けますね。そうそう刀剣以外の特例として、沖縄においては空手の武具としてサイやトンファ、ヌンチャクもあります。サイは金属ですがらいいのですが、トンファとヌンチャクの場合は木製でなく金属製となります。サイに似た物として、十手じってそして鎖鎌くさりがまも同じく帯刀となります」


「へえー!十手持ちもいいなあ。持ち運びが軽そうだ」


「また、忍者の苦無くない手裏剣しゅりけんも帯刀と見なされます」


「いややっぱ、手裏剣にしよう!めちゃめちゃ軽そうだ!!」


 その時、隣の席の女の子が刀子に言った。


「じゃあ、持ってみるでござるか?」


「えっ!?」


 刀子の隣の席には、背中に真っ直ぐな日本刀を背負い、頬までの黒いハーフフェイスマスクで顔を半分隠した、赤い髪のセーラー服の「忍者」がいた。忍者の髪はセミロングで後ろの上の方でお団子にし、かんざしを差していた。身長は155で、小さ目おっぱいだ。


「ほら、持つでござるよ!」


 と、忍者は刀子に言うと、自分のスカートの中に手を入れた。


「えっ!?」


―――ジャラジャラ


 そして忍者はスカートの中から、手裏剣の中心の穴を使って紐でつながれた、手裏剣の束を出した。


――ガシャン!


 刀子の机の上に置かれる手裏剣の束は重そうな音を立てた。


「そうそう、言い忘れてましたが、手裏剣や苦無には規定がありまして、それなりの数を持たなければならないので、それなりに重いです」


 眼鏡を直しながら政経教師が言った。


「これ、何枚あるんだ?」


 刀子は机の上の手裏剣を見て、忍者に質問した。


「15枚でござるよ!これで半分でござるが」


 と、忍者は答えた。


「えっ?まだ持ってるのか!?」


「そうでござる。さて!刀子殿は手裏剣を投げるシーンを、映画で見たことあるでござるか?」


 忍者は言った。


「ああ、あのシュシュシュってやつだろ?」


「それそれ、それでござる!シュシュシュっとやるには、それなりの数が必要でござるよ。そうそう、例えば手裏剣が30枚だとしたら、どのぐらいの重さになると思うでござる?」


「いや~!オレ、計算苦手で」


 すると忍者が笑って言った。


拙者せっしゃの、この十字手裏剣は1枚50グラムでござる。なので30枚持つと、その重さは1500グラムになるでござるよ!つまりは、日本刀一本分になるでござる!!」


「マジかー!?」


 すると、授業に話を戻すために政経教師が言った。


「まあ、何にしても帯刀には楽はないのですよ。空手のサイにしても十手にしても、それなりの重さですからね。ちなみにサイと十手、鎖鎌などは複数持つのが規定です」


――キンコーンカンコーン


 休み時間になった。


「てか、マジかよ!お前、背中に刀を背負ってる他に、そんなに持ってたのかよ!!」


 授業が終わってもまだ刀子は、忍者に言っていた。すると忍者は笑って言った。


「まだあと、苦無に撒菱まきびしや」


 机の上に並ぶ苦無に撒菱。


煙幕玉えんまくだまなんてのも持ってるでござるよ!てか、まだまだあるでござるが秘密でござる!!」


「ひえー!!」


 刀子が驚いていると柄恵が忍者に聞いた。

 

「所で、なんで忍者の刀は曲がってないピョン?これがいわゆる大刀たちなのかピョン!?」


 すると鞘乃が言った。


「そうだよ柄恵ちゃん!直刀だよ!!そしてそれは忍者刀にんじゃとうと言う日本刀だよ!!」


「でも、なんで真っ直ぐなんだピョン?曲がってた方が背中にフィットするピョンよ!」


「それは、塀を登る時に便利だからでござるよ」


 柄恵の質問に忍者が答えた。


「どう使うピョン?」


つばに足をかけて登るでござるが、曲がった刀だと登りにくいでござる。だから真っ直ぐなのでござるよ」


「「なるほどー!」ピョン!」


 柄恵と刀子がハモって納得した。


「でも背中だと抜きにくいよね?」


 鞘乃が心配そうに言った。


「そうだ!背中から抜くなんて、普通の抜刀よりも難しいんじゃないのか!?」


 刀子は他人事ではなかった。


「大丈夫でござるよ|!鞘の長さは普通でござるが、中の刀は普通の大刀だいとうよりも短くしているから、抜きやすいのでござるよ!!」


 忍者は、右の肩から背中の刀を、サッと抜いて見せた。


「ちなみに拙者の鞘の先には、目潰しが入っていて、強く振ると出るでござるよ!で、さらに目潰しの入った鞘尻さやじりを外せば、鞘を使ってシューノーケリング!水の中から息が吸える、水遁すいとんの術でござるよ!!」


 忍者はニコニコして言った。


「てか、お前ってみんなと色々違い過ぎだろ!!」


「って、刀子ちゃんが言うのもどうかと思うよ」


 鞘乃が困った顔で注意する。


「えー!オレのどこが違うんだよ!?」


「見た目と中身が違いすぎるでしょ!?」


「そんなの知らねーよ!!」


 叫ぶ刀子に忍者が言った。


「まあまあ落ち着くでござる!それ以外にも違う所は、まだまだあるでござるよ!」


「えっ!?」


 すると忍者は上履きを脱いだ。そして、パンツが見えないようスカートを押さえながら、バレエみたいに足を上げた。網タイツだった。




「網タイツ」!!




 ご存知!網目模様のタイツの事だ。そのセクシーさは、網目の大きさで変わってくる。網目が細かい、ちょっとセクシー!から、網目の大きい、もっとセクシー!!まで、履く者のイメージを強く変えるレッグウェアだ。


 キャバレーの踊り子、ストリッパー、そして、バニーガールなどで見る事が出来る。ただ、あまりにふくよかな人が、網目の大きい網タイツを履くと、「ボンレスハム」状態になるから、注意が必要だ。まあ、それがイイ!という人もいるだろうが。




「忍者ちゃん、体柔らかーい!!」


 鞘乃が羨ましそうな声を上げた。


「ほら!爪先つまさきを見るでござるよ」


 みんなが忍者の、網タイツの爪先を見た。


「あっ!分かれてる」


 と、刀子。


「分かれてるね!」


 と、鞘乃。忍者の網タイツの先は足袋たびのようになっていた。


「本当は、ずっと黒い足袋を履いているのが良いのでござるが、足袋は校則で、外靴でしかダメなのでござるよ。なので上履きの時は、この特注!足袋網タイツにしてるでござるよ!!」


「そうなのか!でも、なんでそんな、足袋にこだわってんだ!?」


 刀子が首を傾け聞いた。


「それはでござるな――」


 すると忍者は、上履きを残したまま、いきなり飛び上がった!そして飛び上がった先の忍者を見て、みんなは驚いていた。


「「「えっ!?」」」


 みんなの視線の先には、ひっくり返らぬようスカートの前と後ろを押さえ。


「てな訳でござるよ!!」


 天井の照明の傘に、両足の指でぶらさがりながら、ニコニコと笑っている忍者がいたのだった。


つづく

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