「鞘乃の恋?女槍騎士来日!?・③」

「あー!もう、面倒臭せーよ!!いーよ!自分でどうにかするよ!!」


 昼食後、鞘乃と柄恵は文句を言いまくる刀子の腕を引っ張って玄関ロビーに向かった。


「そんな事言わないの!合わせ立ち合いだって、あんなに上手になったんだから!!ほら!研師のオジサンに刀を見せようよ!!」


 高校の校舎の玄関ロビーには、毎週やって来るオジサンの研師職人とぎししょくにんがいるからだ。


「そうだピョン!刀は大事ピョンよ!!てか、あれ?なんか研師職人がオジサンから、若いお兄さんになってるピョン!!」


 柄恵は言った。玄関ロビーに居たのは、いつものオジサンではなく、無精髭ぶしょうひげを生やしてはいるものの、若い青年が居たからだ。だから、柄恵は青年に聞いた。


「いつも居るオジサンはどうしたんだピョン!?」


「ああ、親父は腰をやっちまって!だから代わりに俺が来たんだ」


「あっ」


 その時、鞘乃の時間ときが止まった。


「どうしたんだ鞘乃?」


「・・・ううん、なんでもない///」


 刀子に聞かれて、すぐにうつむいてしまった鞘乃。鞘乃は、なぜか青年研師が見られなかった。そして耳まで真っ赤になる鞘乃。


「どうした鞘乃?腹でも痛いのか?」


「もしかして風邪ピョンか!鞘乃は?」


 刀子と柄恵に心配され、鞘乃はますます、湯気が出るほど真っ赤になると。


「さっ、先に行ってる///!!」


 そう言って、駆け出して行ってしまった。


「なんだアレ?ウンコか!?」


「さあピョン!?てか、刀子はまたそういう事を言ってピョン!!」


 刀子と柄恵が、走り去ってしまった鞘乃を心配していると、他の女子生徒が先に青年研師へ、刀を見せていた。


「えっとお!刀を振ると凄くゆるむんですけどー!!」


 手渡された刀を青年研師が見ると、すぐに声を上げた。


「なんだ!この刀は!?目釘めくぎが紙じゃねーか!!」


 青年研師の目が丸くなる。


「だって無くしちゃったから、ノートの切れ端を丸めて差したの!!」


 と、目はパッチリ二重で、高い鼻、そして髪は綺麗な金髪ロングストレートの河合苦無子かわいくないこが言った。


「こんな切れ端じゃあ、いつ刀身が抜けて飛ぶか分からないぞ!!」


「だって~」


 と、クネクネしながら言う河合。そうそうこの河合だが、あの日、ボンバヘッド河合となって家に帰ると、両親はホントの苦無子を思いだし、とても不憫になってしまったのだ。そして費用を出してくれる事になり、もう一度、整形をしたのだった。ちなみに河合おっぱいは今、Eカップだ。そうそう、ソックスは白のハイソックスだ。


「仕方ねーな!」


 そう言うと、青年研師は柄に目釘を抜く為に、金属で出来た小さなつちで、紙の目釘を抜き取った。それから新しく、ちゃんと竹で出来た目釘と交換した。すると、また他の女子生徒が飛び込んで来た。

 

「なんか刀がズレてるんだけどー!」


 青年研師が刀を受け取ると。


「んっ?鞘と刀が合ってないな!?」


 そして、さらに青年研師が刀を見てみると、またまた目が点になった。


「なあコレ?目釘になるもん自体が、ねーんだけど!?」


「あー!なんか止めるの無くしちゃったんで、ボンドで接着したんですけどー!」


「マジかよ!ボンドって!?」


「すぐに、直りますかー?」


「おいおい!ボンドはダメだろ?しかも、刀身がズレたまま固まって、あーあ!こりゃ、ボンドがすのに時間かかるぞ!」


「えー!どうしよ!?午後の授業で使うんだけどー!」


「あー!じゃあ、刀の貸出しだな!!えっと、学生証だして!んで、このノートに学年と組と名前書いて!!で、貸し出し用の刀の中から好きな刀を持ってけ!!」


 青年研師は、ほとほと信じられない顔をしたまま、貸出しノートを出した。


「てか、お前ら!もう少し刀を丁寧に扱えよ!!親父もよく相手してたなあ……」


 青年研師は、マジ勘弁とばかりにつぶやいていた。さて、次に刀子たちの番になった。


「はい、お次はっ?」


「えっとおー!」


「早く出すピョンよ!刀子!!」


「えっとおー!」


 渋る刀子。


「んっ?用はなんだ?」


「あー!もう、じゃあ、私が出すピョンね!!」


 仕方がないので、柄恵が自分の刀を出した。


「最近、なんか刀がくもって来たピョンよ!毎日、手入れしてるピョン!変だピョンよ!?」


「あー!お嬢ちゃんコレ!打ち粉のやりすぎだよ!!」 


「打ち粉をしたら綺麗になるんじゃないのかピョン?」


「ガラスに砂を吹き付けて、曇りガラス作るの知ってるか?それと同じで、打ち粉は研磨剤だから、やり過ぎれば刀身に細かいキズを付けて曇らすんだよ!!」


「ガーン!綺麗になるピョンか?」


「ああ、任せろ!それこそ、研師の腕の見せ所だ!あとで綺麗にしておく!そこに置いてけ!下校までには仕上げる!!」


「わーい!やったピョン!!帰りに取りに来るピョンよー!!」


 柄恵は大喜びした。


「えっとおー!」


 いまだ出し渋る刀子。


「まあ、とにかく刀を見せてみろ?」


 そう青年研師に言われ、刀子は仕方なしに刀を出した。青年研師は刀を受け取ると、刃を上にして、鞘を抜いた。


「ふーん」


 青年研師は抜かれた刀身を、手前から切っ先へと見ていった。


「お前、凄い戦いをしたんだな?」


「へっ?」


 刀子は気の抜けた返事をした。


「刀身の細かなキズや、ゆがみ具合を見れば、今までどう戦って来たのかなんて良く分かるんだよ。お前、斬る為に物凄く踏み込みをかけているだろ?てか、この切っ先は相手のつばで欠いたのか?」


 青年研師の目が光る。すると刀子は素直に、ウンウンとうなづいた。


「てか、鞘を何度も割ってんだな!白くなっている所を見ると、瞬間接着剤でつけたのか?それに、鯉口もゆるんじまったから、はばきにセロテープ巻いたのか?」


 とにかく、ウンウンとうなづく刀子。


「なかなか、いーじゃねーか!!」


「えへっ?」


 まさか、誉められるとは思ってなかった刀子は、一段と気の抜けた返事をしていた。


「刀の手入れは雑だが、利にかなってはいる。砥石は百円ショップのローラーか?刃の角度が折れにくい鈍角になるから、刃が欠けにくくなっていいよな!それに寝刃ねたばを起こすには、携帯しやすいし簡単でいいよな!!」


「えへっーー!?」


 変な声を出しながら、刀子の目が点になった。


「えっ!研ぐのはそんなんでいいピョンか!?それに鞘の直しに接着剤!そしてはばき直しにセロテープで?そんなんでいいピョンか!?」


 今度は柄恵の目が点になった。


「そんなもんじゃねーかな?刀一本で現代戦するなら、俺も同じかな?と思ってな!砥石だって無くなれば、代用しなきゃならねえし。石でも茶碗の裏、砂場の砂でも使って、斬れるよう寝刃を起こさねーとな!鞘だって、割れたらガムテープでもなんでもいーんじゃねーか?お前らがやってるのは実戦なんだろ?所詮、どんな良い刀でも、消耗品だろ?」


「えっ!?」


 逆に青年研師に質問され、困る柄恵。


「えっ!でも、綺麗な方がいいんじゃないピョンか?その方が良く斬れて!?」


「綺麗?ああ、そういう事か!お前の刀の曇りは、斬れ味に関係ねーからな!!」


「えっ!」


「鞘の綺麗さも関係ねー!斬れ味は、研がれたはがねから生まれるんだ!!まあ、鯉口が緩むのはヤベーけどな!つまりは実戦的に見れば、そっちの嬢ちゃんの方が、色々とにかなってるって事なんだ。とは言え、研ぐ事で全体のバランスが良くなるから、たまには研ぎに出せよ!300円だぞ?本当なら何万だからな!!」


 青年研師に言われ刀子は、メチャクチャ嬉しくなった。そして、本当なら何万と聞いて、即決断した。


「じゃあ!刀をお願いするぜ!!」


 と、気分良く青年研師に、刀子は刀を預けた。


「ああ!欠け自体は直んねーけど、刃がまくれてる所は綺麗にしてやるから任せろ!!じゃあ、お前のも下校までに仕上げとくからな!!」


「おう!頼んだぜ!!」


 こんな感じで刀子と柄恵は、青年研師に刀を預けたのだった。


◇◇◇


「おい!鞘乃?どうして先に行っちまったんだよ?」


「///」


 刀子に言われるが、鞘乃は顔を真っ赤にしたまま、うつむき何も言わない。


「そうだピョンよ!」


「///」


 ずっと下を向いたままの鞘乃。


「そう言えば、あれから研師のお兄さんと……




 話が盛り上がったピョンよ!!」


―――ピクッ!


 その柄恵の言葉に、鞘乃は全身で反応したのだった。


つづく

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