第10話


 神業『嗅覚特化』の能力者 島村 源之助(しまむら げんのすけ)視点


 俺は先程のガキの不意打ちで視力をやられてしまった。だが、俺は神業の能力の『嗅覚特化』であのガキの匂いで位置と場所は特定している。今はダッシュして、俺の方に近づいている。俺の能力を理解しておいて近づくとは馬鹿なヤツめ。返り討ちにしてやる。


 俺はあのガキが自分の中の攻撃範囲内に入った瞬間に拳を突き出す。だが、それは躱されてしまう。間もなく、次々と拳を連打するが、どれも空振りの感覚。どうやら、あのガキは、素早く動きながら俺の攻撃を躱していると予測。


 俺は攻撃をやめ、ガキと距離を取りながら、さりげなく地面の砂を掴む。そう、先程のガキの不意打ち攻撃を今度は俺がやるつもりだ。


 あのガキはそんなことも知らずにまた俺の方に近づいている。次はギリギリまで接近したところでガキの視力を奪い、その隙にあのガキの首を折る勢いで絞める。完璧だ


 さぁ、来い。来い。来い。………来いっ!!


 ………………………ここだ!!


 ガキの匂いが俺のすぐ目の前に来た時点で俺はガキの顔面に目掛けて砂をぶちまける。結構な量だから、防げるはずもない。そして、俺はガキの首を絞め………


 一一一一一一ッッッ!?


 どういう事だ!?いや、そんなはずは無い!!ありえない!!だって


 あのガキの匂いが2つに分裂しただと!?


 おかしい!?今、俺の側にある匂いも確かにあのガキの匂いだ。しかし、なぜ、そことはまた別の方からあのガキの匂いがする!?


 あいつの神業の能力か??いや、先ほど、あの女に倒された仲間達の神業の能力『検索』であのガキの神業はまだ発動未定という内容を『テレパシー』でさりげなく聞いたはずだ!


 って事は、あのガキはたった今、神業を覚醒したというのかッッッッッ!?


 この結論にたどり着いた瞬間、俺は顎に強烈的な刺激を受け、意識を失った。


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 早瀬 拓海視点


 「ふざけんなよ、おっさん。俺はまだ神業は使えねぇよ。」


 俺は白目を向いて倒れている男を見て、少し苛立ちながら呟いた。


 俺の匂いが分裂したのは簡単。ただ、あの男に近づいた瞬間に俺が来ていた制服を脱いで男に目掛けて投げたからである。あの男はまだ視力が回復していなかった。そして、俺の匂いがべっとりと付いている制服を投げられたらあの男にとっては匂いが分裂したかのように感じたのだろう。男が視力が回復しなかったのが不幸中の幸いというものだ。


 俺は制服を回収し、着ずに、脇に挟んで襲われていた女の子に近づく。女の子は俺を見て震えていたが、俺は笑顔で


 「もう、大丈夫だよ。」


 と、手を差し伸べると、女の子はみるみる涙や鼻水を流し、顔をぐちゃぐちゃにしながら俺にしがみつく。俺は女の子の髪を撫でながら立ち上がり、アニエスの方を見る。


 どうやら、アニエスの方も戦いは終わっていたらしく、アニエスは少しボロボロになっていたが勝っていた。俺は安心して、女の子を抱えながらアニエスの方に駆けつけた。


 「良かった。無事だったんですね。」


 「うむ、人数が人数で少し手こずったが、なんとかな。拓海殿の方も戦いながら見ていたが見事な戦略だった。」


 「たまたまですよ。とりあえず、こいつらの意識が戻るまでにここから離れましょう」


 「了解した。先程の浜辺の方へ向かおう。その子にも色々と話を聞きたいしな」


 俺とアニエスは互いに頷き、浜辺の方へ戻った。



 試練残り97:08

 神様候補者残り7916人

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