第5話
「これを飲め」
早瀬を助けてくれた女性は腰につけていた袋を取り出しそこから黒豆のような粒を取り出し、早瀬の口に放り投げる
「ゔぅぅ……」
早瀬は激痛に耐えながらも必死で粒を噛み、飲み込む。すると、完全ではないが背中の痛みが和らいだ。
「あれ?痛みが……….」
「それは、私の国で重宝されている薬だ。服用することによって身体の細胞が活発になりある程度まで回復することができるんだ」
女性は先程使った薬の説明をしながら片手に持っている剣の手入れをしていた。
「あの……….助けてくれてありがとうございます」
「礼などいい。人を守る事が騎士の仕事だ」
彼女の言葉で早瀬は少し違和感を感じた。そもそも彼女の姿の時点で感じていた。顔立ちは大人に負けないぐらい整ってるし、髪は橙色でポニーテール。そして、よくみたら服装の胸の部分に刻まれている獅子のエンブレムの甲冑に『騎士』という言葉……….。
自分がいた日本には本職で騎士なんていないし、他の国でも騎士がいたのは過去の話のはず。早瀬は疑問を解決するべく彼女に聞く。
「俺、早瀬 拓海といいます。」
「私の名はアニエス・ドルガーナだ。バルエガ王国の騎士として仕えていた者。よろしく頼む」
ーーやはり……….
早瀬がいた世界にはバルエガ王国という国など存在しない。つまり、彼女は別世界の人物だということだ。
それによってこの神様候補の試験は早瀬がいる世界だけではなく、無数に広がる異世界の死人たちも参加している事が分かる。もしかしたら、その内にエルフ族や獣人族などにも会うかも知れない。神様候補恐るべしっ!!
「あの、アニエスさん」
「アニでいい。拓海殿」
「え…あ、ハイ。アニさん」
「何だ?」
拓海殿という呼び方の方がムズムズし、違和感しか感じないが気にしない事にする。
「あの怪物をどうやって倒したんですか?」
早瀬は腹に穴の空いて倒れている鬼獅子の方に指を指す。
「あぁ、奴は私の神業の能力で駆逐した。恐らくあの状況だと拓海殿の能力は戦闘向きではなかったのだな」
「え!?俺、まだ自分の神業の能力が分からないんですけど……….てか、この試験の内容も……….」
早瀬はアニの言葉に驚きつつ今の自分の状況をアニに伝えると、アニは目を丸くした。
「驚いた。拓海殿は天使に聞かなかったのか??そのトケイとやらの使い方を。神業とか試験の内容とかはそのトケイが教えてくれるとか」
アニは自分の左腕につけている腕時計を早瀬に見せる
「知らないし、初耳ッッッ!!」
は大声でアニにツッコミを入れつつ、自分の左腕に付けている時計を見る。腕時計は『99:27』と表示していた。
「そのトケイをタッチしてみろ」
アニの指示で早瀬は腕時計の画面に触れる。すると『選択モード!!』と又してもミルの音声が流れ、画面がタイムリミット表示から赤・青・緑・黄・黒・白の6つのアイコンが表示している画面に切り替わった。
「その緑色のアイコンを押すと試験の内容が分かるし、赤色のアイコンを押すと自分の神業が表示される」
アニは細かく教えてくれる。早瀬はまず、緑のアイコンを押してみる
『説明モード!!今から第1試練の内容を説明するね。一回しか説明しないからよく聞くように!』
ミルの音声がまた響く。早瀬はこの腕時計の名前をこっそり「ミル時計」と名付ける事にした。
『第1の試験はシンプル・イズ・ベスト!!100時間この無人島で生き延びる事です!!生き延びる術(すべ)あなた次第!!頑張ってね!!バイバーイ!!』
ミル時計は試験の内容を説明し終えるとまた選択モードの画面に戻る。そして、緑色だったアイコンが灰色になり、触れても反応がなかった。しばらく経つとまたタイムリミット画面に切り替わる。
「つまり、このタイムリミットは第1試練の残り時間を示している訳か。」
早瀬は再び選択モードに切り替えると次に赤色のアイコンを押そうとしたが、押す前に気になることをアニに聞いてみる。
「ちなみに、アニさんの神業はどんな能力なんですか??」
「私のか?私の神業はこのトケイによると『貫通撃』というもので、どんなものでも貫く事が出来る能力だ。」
つまり、先程の鬼獅子はアニの貫通撃で腹に穴を開けられ息絶えたという事なのだろう。十分に強い能力だ。
早瀬は俺もあんなに凄い能力を使いたいと思い、自信を持って赤色のアイコンをおす。
『神業モード!!あなたの神業を調べてみるね。少々お待ち下さいませ〜♪』
ミル時計は神業モードというものに切り替わり、画面が輝きながら変な音楽が流れ始める。
『デテン!!出ました!あなたの神業はぁぁぁぁ!!』
5分ぐらい時間が経ってようやく検査が終わったらしい。早く自分の能力を知りたい早瀬はワクワクしながら待っていたが、思いもよらない言葉が返ってきた。
『ごめんなさ〜い。貴方は運が悪くまだ天使の遺伝子が身体に定着してないみたい。だからまだ神業は使えないし、能力も未定で〜す!!。ごめんねごめんねぇぇ~〜。』
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