第4話

早瀬の前に現れたその怪物は簡単に言い表すならば恐怖の塊としかいえない存在だった。顔はライオンのような鬣に鬼のような顔をしており体はとてもごつい。しかも体中に古傷がいくつかあり、過去に同種、もしくは別種との死闘を繰り返した事が伺える。


『ピピピーーーー、猛獣確認。猛獣確認。直ちに図鑑モードに入ります。』


「!?」


突然、腕時計からミルらしき声が聞こえ、早瀬は目線だけを左腕に向ける。すると、腕時計の画面が光り出しており、ピピピという音を鳴らしている。


『鬼獅子(おにじし)。魔獣族。魔界の森に生息。身体中に傷があればあるほど凶暴であり、強い。』


恐らく収録音声を担当したミル(腕時計)が説明すると画面がまた制限時間の画面に戻る。


「おい、この腕時計……….ポケ◯ン図鑑まんまじゃね……….ーーーーうわっ!!」


腕時計の優秀さにツッコミを入れている途中に鬼獅子が早瀬の方へと突進する。早瀬は間一髪避けるが鬼獅子はすぐさま方向を葉山よ方に向け直し、再び突進する。


葉山は再び回避しようとするが鬼獅子は葉山が避ける瞬間に突進をやめ、瞬時にぐるりと自分の体を回し、お尻の部分に長く生えている太い尻尾を早瀬に当てる。


「ぐはっ!!」


鬼獅子の尻尾攻撃をまともに脇腹に喰らい、早瀬は吹っ飛ばされ大木に背中を打ち当てる。背負っていた鞄が多少のクッションとなってなんとか死なずには済んだが、早瀬は血を吐き出しながら鬱むせになる。


ーーーヤバイ……….死ぬ!!


二度めの死の恐怖に襲われる。視界もぼやけて鬼獅子の姿がまともに見れていない。そんな中、鬼獅子はゆっくりと葉山に近づきて行く。


ーーー来るな怖い来るな痛い来るな死にたくない来るな痛い来るな来るな怖い怖い痛い怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い怖い怖い怖い痛い怖い来るな怖い死にたくない怖い来るな死にたくない怖い痛い怖い死にたくない来るな怖い死にたくない!!


鬼獅子が早瀬の頭部目の前まで近づき、大きく口を開ける。既に早瀬は、涙と鼻水とよだれをだらだらと流し、下半身は黄色い液体で濡れていて「あ……あ……….」という言葉しか出なかった。


ーーー折角チャンスを貰ったのにすぐ無駄にするとか俺って本当に運が無いんだな……….。


早瀬が全てを諦めた状態で心の中で呟く。そうしているうちに既に早瀬の頭全体が鬼獅子の口の中に入っており、後は自慢の牙と顎の力で早瀬の頭を噛みちぎるだけという状態になった。


グッと牙が早瀬に近づき、早瀬は目をギュと瞑った瞬間に


「ーーーーはぁぁ!!」


キュイイイイーーーーーーンという頭に響く音が響きその後ズドンという何か大きいモノが倒れる音がした。早瀬は恐る恐る目を開けると先程まで自分を噛みちぎろうとした鬼獅子が腹に大きな穴を開けて早瀬から数メートル離れた場所に倒れていた。


どういう状況なのか頭が追いつけず、混乱しているとザッザッという足音が聞こえる。しかもその足音はだんだんと早瀬のほうに近づいており、怖くなって早瀬は甲羅に籠るかのように丸くなり顔も伏せる。


ザッザッという足音は次第に大きくなり、恐らく早瀬の目の前に来たのだろうかピタリも止まった。早瀬は恐怖で身体をビクビクと震えていると


「大丈夫か??怪我はないか??」


意外な言葉が聞こてえきて、早瀬は驚いて恐る恐る顔をあげる。するとそこには甲冑を着た美しい女性が手を差し伸ばしていた……….。




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