第43話 最強の大盾
水平線の彼方に、大陸が見えてきた。
「シャンティ先生! あれが南の大陸ですか?!」
「そのようですね。ここからは気を引き締めて行動して下さい!
南の大陸では、気を抜いたら簡単に死にます!
魔物のレベルも高いですし、とんでもない化物クラスの魔王、大魔王、冒険者などがうじゃうじゃいます!
名前が知られていない強者も、わんさかいますので、気をつけて行動して下さいね!」
シャンティ先生がいう化物クラスとは、どんな奴なんだ……
西の大陸では、シャンティ先生も十分化物クラスだと思うんだけどな。
そうこう話しているうちに、南の大陸に到着した。
普通はヤリヤルから南の大陸まで、馬車と船で3ヶ月間程かかる工程らしいが、4日間で到着してしまった。
グリフォンでも10日間はかかるらしい。
なので、4日間で到着するのはメチャクチャ早いのだが、シャンティ先生によると、エリスのペガサスなら3日間で来れるらしい。
それを聞いてアリスは、必ずペガちゃんより早くなってやるんだ!
と、歯ぎしりをして悔しがっていた。
ーーー
ムササビ自治国家の首都は、連絡船の港があるモモンガにある。
モモンガは、流石に冒険者が作った国の首都だけあって、いかにも私は荒くれ者の冒険者です。
と、いうような格好の者達で溢れかえっている。
ムササビ自治国家は、冒険者が統治する国家で、ギルドランキング10位までの上位ギルドが、冒険者ギルドと、国の政治に参加できる議席権を持つ事ができる。
ムササビ自治国家の議席権を得られると、自分達の所属しているギルドに有利な決まりなどを作る事がてきたりするので、上位ギルドのギルドポイントの獲得争いは、熾烈を極めるのだ。
ギルドポイントは、クエストをこなすか、未攻略ダンジョンの攻略で得る事ができる。
クエストでギルドポイントを稼ぐには、魔王討伐などの特別なクエスト以外は大して稼げないので、ほとんどの上位ギルドは未攻略ダンジョンの攻略を目指す。
1階層を攻略すると1ポイント、2階層を攻略すると2ポイントと、階層の深さ分だけギルドポイントを得る事がてきるのだ。
なので、深い階層、例えば200階層を攻略すれば200ポイント、続けて201階層も攻略すれば201ポイント得る事ができる。
合計すれば一気に401ポイント稼ぐ事ができる事になる。
クエストをチョビチョビこなして、1ポイント、2ポイントゲットしていくなんてバカバカしいのだ。
しかしランキング圏内、当落選上の大手ギルドの中には、その1ポイント、2ポイントが欲しい所もある。
そんなギルドは初心者冒険者などを次々に勧誘し、少しでもポイントを稼ごうと躍起になっていたりする。
そして『犬の肉球』はというと、少数精鋭で未攻略ダンジョンを攻略し続ける最もハードコアなギルドとして名を馳せていたのである。
しかも、結成してから休止する3年前までランキング10位以内をずっとキープし続けていたりする。
「まずは、冒険者ギルド本部にいきましょう! 冒険者ギルド本部にガリム王国の今回のクエストの関係者が向かいに来ているはずですので」
ーーー
冒険者ギルド本部は、荒くれ者の冒険者の本部には似つかわしくない、ベルサイユ宮殿のような豪華な3階立ての建物だ。
実際にはムササビ自治国家の城の機能も兼ね備えており、国と政治の中枢だったりする。
何気に、世界中どこの大陸にも、大きな町や、首都には必ず冒険者ギルドがあるので、世界中のどの国においてもムササビ自治国家は影響力があったりするのだ。
「凄いのじゃ! なんなのじゃ! ここは!!」
煌びやかな調度品、大きなシャンデリア、どんな人物かは分からないが、立派そうな人の肖像画なども飾ってある。
とてもじゃないが、冒険者ギルドの本部だとは思えない。
その宮殿の中に、いかにも荒くれ者の冒険者が闊歩しているのだ……
どう見ても絵的におかしい。
1階部分は、他の冒険者ギルドと同じようにカウンターやテーブルなどが置かれているのだが、その数と、豪華さが半端ない。
椅子に座るだけで汚してしまわないか心配になるほどだ。
カウンターに並んでいるお姉さん達も30人位はいる。 さすがは冒険者ギルド本部という所か、皆 美人揃いだ。
壁に張ってあるクエストの数も桁違いにあり、ヤリヤルとは違いS級クエストも数多くある。
そして、一際目立つ所に貼られているのが年間ランキング表だ。
1位から50位までのギルドポイントが書かれてあり、毎日更新されるみたいだ。
そして、1年間で稼いだギルドポイントが多かった上位10位までが、次の年のランキング10位が決定するまでの1年間、ムササビ自治国家と冒険者ギルドの運営の会議に出られる議席権を得る事ができるのだ。
シャンティ先生がカウンターでガリム王国の関係者を呼び出す手続きを行っている間、豪華なテーブルに座って待っていると、大きな盾が動いているのが見えた。
人は見当たらない。大きな盾だけが不気味に動いているのだ。
「おい! アリスあれはなんだ?
大きな盾が一人で歩いているように見えるんだが?」
「本当なのじゃ! あれはどうなっているのじゃ?
誰も驚いているようには見えないのじゃが?
冒険者ギルドの本部ともなると、意志を持った大盾が冒険者をしている事も普通じゃというのか!」
そうこう話していると、シャンティがカウンターでの話が終わったのか、こちらを振り返った。
そうすると、動く大盾がシャンティに近づいていき、シャンティを飲み込んでしまった。
「アレン君! アリスちゃん!
シャンティさんが大盾に飲み込まれちゃったよ!!」
アリスが体に闘気を張り巡らせて、縮地で、一気に大盾に詰め寄り、渾身の右ストレートを放つ!!
ト~ン。
「ウワッ!! なんじゃと!!」
アリスの闘気を込めた渾身の一撃を、大盾は間抜けな音をさせて、軽く跳ね返した。
「アリスちゃん! どいて!」
続けてジュリが、胴打ちのように大盾を横から切りつけた。
ポキッ!
「エッ!! なんで? 闘気を込めたのに、何で折れるの?!」
ジュリが折れた刀を見て、涙目になっている。
「ジュリ! アリス!
どいてろ! 今度は俺がやる!」
右手人差し指に野球のボール程の大きさの土の球をイメージして、極限まで魔素を練り上げ縮小させていく。
「行け!」
ボンッ!!
「殺ったか?」
しかし大盾には、傷一つない。
「クソ!! 駄目だったか!
なんて硬さだ! アリス! ジュリ!
体勢を立て直して、連続に攻撃するぞ!」
「了解じゃ!」
「了解!」
「もうそのへんで、止めてくれないかな? さすがに僕も、そろそろ本気で怒るよ!」
若い女の子の声が聞こえた。
「な……なんじゃと?!
盾が喋るだと! 物に魂が宿るとは、まさかお主は 妖怪、物の怪の類か?」
「妖怪、物の怪が、何の事かは分からないけど、僕は由緒正しきドワーフ族です!」
「な……なんと! ドワーフ族とは、喋る盾の事じゃったのか!?」
「違いますから!!」
大盾が、突っ込んだ。
「アリスお嬢様! この方はアン·ドラクエルという、エリス奥様のご友人の娘さんです!」
「シャ……シャンティ?
どこにいるのじゃ! 大盾に食べられたのではなかったのか?」
「盾の後ろに普通にいますよ!」
シャンティ先生が大盾の横から、フワフワと飛んで出てきた。
ん……今、ドラクエルと言ってなかったか?
ドワーフ族でドラクエルと言ったら、ドワーフ王ドラクエルしかいない。
元勇者パーティーで、最強の一角。
尚且つ、世界一の武器職人ドラクエル。
その娘さん?!
大盾がクルッと反転すると、メイド服を着た黒髪の12、3歳位に見える美少女が現れた。
背中に担いだ大盾がデカすぎて体全体が隠れていたみたいだ……
「初めまして! 僕は『犬の尻尾』副団長アン·ゴトウ·ドラクエルです! 姫ちゃんから、君達を守るためにやって来ました!」
確か、『犬の尻尾』は現在ギルドランキング第3位、俺達『犬の肉球』と似た名前だったので気になっていたのだ。
その副団長といえば、かなりの実力者である事は間違いない。
実際に、ジュリの刀はへし折られ、俺とアリスの攻撃は全く効いていなかった。
しかも、アンさんが何かしたかと言われれば、何もしていない。
結果的には、俺達が不意打ちで後ろから攻撃を仕掛けて、全ての攻撃を跳ね返されただけだ……
やはり、南の大陸は化物ばかりだ。
異世界での俺の妹は、幼女で紅いドラゴンみたいデス 飼猫 タマ @purinsyokora
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