第42話 南の大陸へ!!

 

 俺達は、トン王国のトンテイルという活気溢れる港町に来ている。


 潮の香りが漂うこの町は、トン王国最南端、西の大陸と南の大陸を繋ぐ、唯一の連絡船が出ている港町だ。


 南の大陸の周りの海域には、強力な海の魔物がうじゃうじゃいる。


 普通の船では、南の大陸に近づく事さえもできない。


 連絡船は、南の大陸のムササビ自治国家という、冒険者が統治している国が運営している。

 この国には冒険者ギルド本部もあり、連絡船は、冒険者ギルドが保有している魔物に感知されないアーキテクトが実装され、更に船底にはダンジョンの階段フロアーに張ってある上級結界まで張ってあるので、巨大な魔物に体当たりされたとしてもビクともしない造りになっている。

 その上、ムササビ自治国家から派遣されたS級ギルドの冒険者が、20人体制で警護までしている。


 少し過剰な感じもするが、それくらいでないと、この海峡を航海するのは不可能という事だ。


 という訳で、トンテイルは唯一の西の大陸と南の大陸を結ぶ連絡港として栄えているのだ。


「この町は活気があって、ワクワクするのじゃ! 」


 アリスは目を輝かし、キョロキョロ町のあちこちを見て回っている。


 昨日の夜遅くにトンテイルに到着したので、町の景色や様子が暗くて全く分からなかったのだが、朝起きて町に出てみると、町の大きさや人の多さ、色んなお店が所狭しと溢れ返っているのを目撃して、アリスは朝から興奮しまくっているのだ。


 この町には亜人や魔人は勿論、西の大陸では全く見かけないダークエルフもたくさん住んでいる。


 そのダークエルフ達が、姫の事をチラチラ見てくるのだ。

 中には、手を合わせて拝んでいる者までいる始末だ……


「シャンティ先生、ダークエルフはなんでアリスを見て拝んでいるんですか?」


「ウ……ン……何ででしょう?

 アリスお嬢様程の、崇高で、偉大な御方だといくらでも思い当たる節がありますが、強いて言うなら、アリスお嬢様が可愛すぎるからじゃありませんか?」


「………」


 忘れていた……この人はアリス至上主義者で、猛烈なアリス信者だった……

 シャンティ先生にしてみれば、アリスが崇拝される事は当たり前の事で、なんら不思議な事だとは思わないのだ。


 この人に質問した俺が間違いだった……


「姫様! お会いできて光栄なのです!」


 見た目、俺達兄弟と同じ位のダークエルフの子供が、目をキラキラさせながらアリスの元に、駆け寄ってきた。


「姫様? 妾は姫様などではないのじゃ!

 妾は『犬の肉球』エリスとアレックスの娘! 紅龍アリス様なのじゃ! ワッハハハハ!」


「姫様じゃないの?

 姫様は赤髪のダークエルフだって、お母さんが言ってたのに!」


「ワッハハハハ! 妾はダークエルフではないのじゃ!

 エルフ族と、赤髪で色黒な人族の間に産まれた、ハーフエルフなのじゃ!

 ワッハハハハ!」


「なんだ……姫様じゃないのか……」


 ダークエルフの子供は、急にテンションが下がり、ガッカリした表情になった。


「な…なんなのじゃ!

 妾だって地元では、それなりの有名人なのじゃ!」


「姫様は、南の大陸の漆黒の森の女王様なんです!

 地元で有名だとかと、次元が違うのです!」


 ダークエルフの少女は、こいつ何言ってんだ? という態度でアリスに言い放った。


「クッ!! 姫様とは最強の一角、ダークエルフの女王ガブリエル·ツェペシュの事であったか。

 確かにガブリエルに比べれば、今の妾は無名じゃ!

 しかし、すぐにガブリエルをも倒し、妾が最強と言われるようになってやるのじゃ!!」


 アリスは無い胸を反らし、高らかに宣言した。


「無理だと思います!

 姫様にはケルベロスという、神獣の使い魔までいるんだから!」


 ダークエルフの少女が鼻で笑う。


「フン! それがどうしたのじゃ!!

 ケルベロスなど、只の犬コロじゃろ!

 それなら、妾のほうが間違いなく格上じゃ!」


 と、言った直後、アリスは空に浮かび上がった。


 ダークエルフの少女は、突然の事に口をあんぐり開けて固まっている。


 トンテイルの人々は、ありえない状況に驚いて、ちょっとした騒ぎになっている。


 見た目ダークエルフの赤髪の幼女が、空中浮遊しているのだ。

 騒ぎが起こらない方がおかしい。


「あの赤髪のダークエルフは、ガブリエル様の縁者のものか?」


「姫様、そのものではないのか?」


「空中浮遊できるダークエルフなど、姫様以外におられるのか?」


 騒ぎの様子を高い所で見ていたアリスが、ニヤッと笑った。


「ワッハハハハ! 妾は『犬の肉球』神道異界流の正当後継者のアリス様じゃ!

 またの名を、双子の兄アレンの使い魔!

  最強、最悪の厄災龍、紅龍アリス様なのじゃ! ワッハハハハ!」


 と、言った瞬間!!

 龍体に変身した。


 町の人々は幼女が空中浮遊しているだけでも驚いていたのに、その幼女が突然龍になったのだ。

 皆、腰を抜かし、喋る事もできないでいる。


 アリスはその様子に満足し、俺達の元に戻ってきた。


「兄様! ジュリ! シャンティ!

 いざ、南の大陸に、ガブリエルを倒しに向かうのじゃ!!」


「アリスちゃんは、騒ぎを起こさないで行動する事ができないの……」


 ジュリがため息をつきながら、アリスの背中に飛び乗る。


 俺とシャンティ先生も続けて飛び乗り、トンテイルを後にした。


 目的が、アレックスの救出から、ガブリエルを倒す事に変わっている気がしたが、今は気にしない事にしておく。

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